「ごんぎつね」の授業[4]形象よみ-クライマックスで変化したこととは?[板書案]
【国語小4教科書掲載/光村図書出版ほか】
今回は「ごんぎつね」の山場を読み深め、作品の主題へと迫っていきます。
「ごんぎつね」の山場は、6の場面から作品の最後までです。
▶︎「ごんぎつね」の授業 全五回 [1] [2] [3] [4] [5]
今回は「形象よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「物語の新三読法について」と「形象よみの授業」をご覧ください。
「ごんぎつね」山場の鍵の取り出し
今回は、クライマックスを迎える「山場」の鍵の取り出しを行います。「ごんぎつね」の山場は、6の場面から作品の最後までです。
「ごんぎつね」の山場(6の場面)全文は次の通りです。
その明くる日も、ごんは、くりを持って、兵十のうちへ出かけました。兵十は、物置でなわをなっていました。それで、ごんは、うちのうら口から、こっそり中へ入りました。
そのとき兵十は、ふと顔を上げました。と、きつねがうちの中へ入ったではありませんか。こないだ、うなぎをぬすみやがったあのごんぎつねめが、またいたずらをしに来たな。
「ようし。」
兵十は立ち上がって、なやにかけてある火なわじゅうを取って、火薬をつめました。そして、足音をしのばせて近よって、今、戸口を出ようとするごんを、ドンとうちました。
ごんは、ばたりとたおれました。
兵十はかけよってきました。うちの中を見ると、土間にくりがかためて置いてあるのが、目につきました。
「おや。」
と、兵十はびっくりして、ごんに目を落としました。
「ごん、おまいだったのか、いつも、くりをくれたのは。」
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。
山場における鍵の取り出しの指標は以下の通りです。展開部同様、「事件の発展」に着目します。
展開部・山場の「鍵」の取り出しの指標
- 事件の発展(←より主要な指標)
A.人物相互の関係性の発展
B.人物の内的・外的な発展
C.事件の発展とひびきあう情景描写 - 新しい人物像
発問例
山場では事件は急転回するけれど、特に事件が大きく動くところ、発展する部分に着目しよう。
「ごんぎつね」山場の鍵の読み深め
授業でぜひ取り上げたい「鍵」を4つ紹介します。
1.「その明くる日も」の「も」
5の場面では、ごんは自分の行為を「神様のしわざ」とされたことに対し、「つまらない」「引き合わない」と思います。「引き合わない」と思うのであれば、もう兵十へのつぐないをやめてもよいはずです。
その明くる日も、ごんは、くりを持って、兵十のうちへ出かけました。
(中略)
それで、ごんは、うちのうら口から、こっそり中へ入りました。
それでも、ごんは「その明くる日も」栗を持って兵十のところへ向かいます。この「も」には、列挙の効果だけでなく、強調の効果があります。引き続き行われるごんのつぐないを強調しています。
- 「明くる日も」の「も」▶︎「つまらない」と感じるならやめてもいいのに続けている、ごんの行為を強調。
- 「こっそり中へ入りました」▶︎初めは入り口に置いていただけだったが、今回はうちの中へ入っている。兵十にばれてしまうかもしれない危険な行為。
ごんにとって兵十はつぐないの相手であることを大きく越えている
(共感・親しみ・愛情・思慕に近い気持ち)
発問例
2.兵十の「きつね」という呼び方
この作品は三人称の語り手が語っています。ここまで語り手はごんに寄り添い、ごんの心の中に入り込んでいます。しかし、兵十の心の中には入りませんでした。しかし、この6の場面で初めて語り手は兵十の心の内に入り込みます。
と、きつねがうちの中へ入ったではありませんか。こないだ、うなぎをぬすみやがったあのごんぎつねめが、またいたずらをしに来たな。
「こないだ、うなぎをぬすみやがったあのごんぎつねめが、またいたずらをしに来たな。」は、兵十の心の声です。「と、きつねがうちの中へ入ったではありませんか。」は兵十のごんに対する見方を代弁しています。「と、ごんがうちの中へ入ったではありませんか。」ではなく、「きつね」と読んでいます。ここから兵十のごんへ対する見方を読むことができます。
語りの「きつね」から読めること
と、きつねがうちの中へ入ったではありませんか。
- 兵十にとってごんは「きつね」という獣でしかない。
- 理解し合ったり、心がつながったりすることなどありえない強い異質性。
- 人間の立場で上から見下げている。
兵十の心の声から読めること
こないだ、うなぎをぬすみやがったあのごんぎつねめが、またいたずらをしに来たな。
- 「〜やがった」▶︎相手をののしり、侮蔑する時に使う表現。許し難いという気持ち。
- 「ごんぎつねめ」の「め」▶︎相手を見下げる気持ち、嫌悪の気持ち。
兵十にとって、ごんは躊躇なく撃ち殺すことのできる相手
「兵十のごんへの見方」は、「ごんの兵十に対する見方」と大きくかけ離れています。ごんの兵十への見方を思い返すと、その落差の計り知れない大きさを確認できます。
兵十の母親のことを思いやり「あんないたずらをしなけりゃよかった」と思い、毎日毎日「つぐない」に栗や松茸を持って行きます。兵十と加助の後をついていく時には「兵十のかげぼうしをふみふみ行」きます。つぐないを「神様のしわざ」と思われ「引き合わない」と感じつつも「その明くる日も」栗を持って行きます。そういうごんに対して兵十は獣として冷たく見下げます。
発問例
以上のようなやりとりで、語りの「きつね」という呼称にも着目させていきます。
3.ごんを撃つことを躊躇しない兵十
「ようし。」
兵十は立ち上がって、なやにかけてある火なわじゅうを取って、火薬をつめました。そして、足音をしのばせて近よって、今、戸口を出ようとするごんを、ドンとうちました。
ごんは、ばたりとたおれました。
兵十は躊躇なく、そして周到にごんを撃ち殺そうとします。
- 「ようし。」▶︎このチャンスに殺してやろうという強い決意
- 「足音をしのばせて近よって」▶︎必ずごんを仕留めてやろう、撃ち殺してやろうという周到な行為。突発的ではない。
兵十のこの行動は、導入部でのごんの人物設定(農民たちにとって許し難いいたずらばかりをしている札付きのきつね)も伏線になっています。もちろん、展開部でごんが兵十の獲物を盗んでいると勘違いされたこともまた伏線です。
おそらく村人ならば誰でもが自然とそうした可能性があり、兵十はその一人に過ぎません。だから、これだけのことをしながら読者が兵十を残酷な人間だと恨むことはないのです。
発問例
4.クライマックスで起きた変化
「ごん、おまいだったのか、いつも、くりをくれたのは。」
ごんはぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
兵十はこれまでの栗や松茸などの贈り物がすべてごんの行為であったことに気付きます。
ここで初めてごんと兵十の見方のすれ違いが大きく解消されます。その証拠にここで兵十のごんの呼称が大きく変化しています。その呼称の変化とともに二人の関係性も大きく変化します。
呼称の変化のもつ意味
「きつね」「あのごんぎつねめ」▶︎「ごん」「おまい」
- 「人間と獣」という関係▶︎「人間と人間」のような関係
- 兵十にとってごんは遠い存在(強い異質性)▶︎近しい存在(同質性)
- 理解し得ない相手▶︎理解し繋がり合える可能性
- 人間の立場から見下げている関係▶︎対等な関係
- 憎らしい存在▶︎感謝すべき存在
- 殺して当然の存在▶︎殺すことは許されない存在
もし誤解がなかったら、二人は理解し合えたかもしれない
「ごんぎつね」のクライマックスは、大きくすれ違っていた「ごんの兵十に対する見方」と「兵十のごんに対する見方」が転換し、互いの見方がかなり重なったという点では事件として「解決」ということもできます。
しかし、そういった解決が見られた時に、一方が一方を撃ち殺すという悲劇が同時に進行しています。事件としての「破局」です。
つまり、この物語はクライマックスで、「解決」と「破局」がほぼ同時にやってくるのです。そのため、読者は気持ちを引きちぎられるように感じるのです。
これらの読みを統合すると「ごんぎつね」の主題は次のように考えることができます。
- 本来わかりあえるはずの者同士でも大きな誤解によって、殺す・殺されるという悲劇を招いてしまうことがある。
発問例
「ごんぎつね」山場を読み深める板書案
展開部の4.クライマックスで起きた変化を読み深める板書案です。
拙著『増補改訂版 国語力をつける物語・小説の「読み」の授業 ―「言葉による見方・考え方」を鍛えるあたらしい授業の提案 』では、「ごんぎつね」の更に詳しい教材研究を紹介しています。ぜひご覧ください!
掲載教材:「モチモチの木」「ごんぎつね」「走れメロス」
次回は、「ごんぎつね」をさまざまな観点から再読し、主体的に評価・吟味していきます。
📕注:本文は、小学校国語教科書『国語四・下』(光村図書出版,2015年)による。