「スイミー」の授業[5]形象よみ-山場の鍵を読む→主題へ迫る

「スイミー」の授業[5]形象よみ-山場の鍵を読む→主題へ迫る
今回の教材:「スイミー」レオ=レオニ 作・絵/谷川 俊太郎 翻訳
【国語小2教科書 掲載/光村図書出版・東京書籍ほか】
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前回は、事件の動き出す「スイミー」展開部から鍵を探し、読み深めていきました。
今回は、「スイミー」の山場の鍵を読み深めていきます。また、最後には「スイミー」の主題へと迫っていきます。

▶︎「スイミー」の授業 全六回 [1] [2] [3] [4] [5] [6]
 
※今回は「形象よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「物語の新三読法について」と「形象よみの授業」をご覧ください。

「スイミー」山場の鍵の取り出し

 「スイミー」の山場の鍵の取り出しを行います。

  山場の鍵の指標は、展開部と共通しており、以下の2つです。

 展開部・山場の「鍵」の取り出しの指標

  1. 事件の発展(←より主要な指標)
    A.人物相互の関係性の発展
    B.人物の内的・外的な発展
    C.事件の発展とひびきあう情景描写
  2. 新しい人物像

 ▶︎展開部・山場の鍵の取り出し指標について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

「スイミー」山場の鍵の読み深め

 「スイミー」の展開部において、ぜひ授業で特に取り上げたい2つの鍵について読み深めていきます。

鍵1.スイミーは〜うんとかんがえた。

 スイミーはかんがえた。いろいろかんがえた。うんとかんがえた。

 ここは反復法が使われています。「スイミーはいっしょうけんめい考えた。」など一文で表現することもできますが、反復法を用いることで、思考の深さ、試行錯誤の様子、時間の長さ、煩悶・苦しみが見えてきます

例)「スイミーは〜うんとかんがえた。」の読み深める発問

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ここからどんなことがわかる?
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スイミーは一生懸命考えた
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どうしてそういうことがわかるの?
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「かんがえた」が3回あるから。
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なるほど。でも、たとえば「スイミーはいっしょうけんめいかんがえた。」でもいいよね。どう違う?

この後、一人で考える→グループ(またはペア)で話し合う→全体で話し合うという流れがおすすめです。

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「いろいろ」ってかいてあるから、なかなか答えが見つからなかった。
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苦しそう。
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「うんとかんがえた」ってなってるから、長い時間考えた。
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なかなか答えが見つからなかったともつながるね。
ちょっと比べながら読んでみようか。

「スイミーはいっしょうけんめいかんがえた。」と「スイミーはかんがえた。いろいろかんがえた。うんとかんがえた。」を一斉読します。

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考えたが三回続く方が、長く考えていた感じがする。
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なかなか答えがでない感じ。
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「スイミーはかんがえた。いろいろかんがえた。うんとかんがえた。」のほうが、なかなか答えが出ない、長く考えていた感じがより伝わってくるんだね。こういうふうに同じことを繰り返していうことを「反復法」って言うんだよ。
ここで、長い時間、なかなか答えが見つからない、苦しい、つらい。だから、次の「それから、とつぜん、スイミーはさけんだ。」が強調されるんだね。

 以上のように読み深めていきます。

鍵2.みんなが、〜「ぼくが、目になろう。」

 構造よみの授業で見いだしたクライマックスはもっとも大事な鍵です。そこを読み深め、主題へ迫っていきます。

 みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき、スイミーは言った。
 「ぼくが、目になろう。」

 上記の鍵以前と鍵を経て生まれた変化をみていきます。

  • 小さな魚たちが集まり、一匹の大きな魚のようになった
    展開部では「一ぴきのこらずのみこ」まれた小さな魚ですが、ここでは小さな魚たちが力をあわせ、「大きな魚」のようになることで、大きく恐ろしいまぐろに立ち向かいます。
  • スイミーがリーダーへと成長した
    スイミーの成長も読めます。展開部ではまぐろに襲われ、逃げることしかできなかったスイミーですが、新しい仲間と出会い、試行錯誤しながら考えを生み出し、リーダーとして新しい提案します。「はなればなれにならないこと」「もちばをまもること」と具体的な指示を出します。絶望を乗り越え、試行錯誤する中で、リーダーとして成長していることがわかります。
  • スイミーが大きな魚の「目」になった
    この鍵以前では、指示を出すだけでスイミー自身は参加していませんが、ここで初めてスイミーが体の黒さを生かし、大きな魚の「目」として参加します。
    「目」は先を見通す役割をもち、「中心」という意味で使われることもあります。ここでは本当の目ではありませんが、スイミーが本物の「リーダー」になっていくという象徴的な意味も読めます。
  • スイミーの黒さが大きな意味を持った
    導入部でスイミーは「みんな赤いのに、〜からす貝よりもまっくろ。」と述べられていました。「のに」は、「期待と違う」という言外の意味をもちます。しかし、その異質性が「ぼくが、目になろう。」というクライマックスで生きます。

 以上のような読みを生かしながら主題をまとめると次のようになります。

  1. 一人一人は小さな力でも、力を合わせることで  凶暴で大きく強い相手にも打ち勝つことができる。
  2.  怯えたり絶望したり悲嘆にくれたりしながらも試行錯誤する中で(人は)リーダーとして成長していく。
  3. 一見否定的に見える異質性が、集団を救う。

例)「みんなが、〜「ぼくが、目になろう。」を読み深める発問

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いよいよクライマックスだね。クライマックスでどういう変化があったか、今回はたくさん考えてみよう。前にクライマックスを見つけた授業(スイミーの授業2)のことも思い出してみて。

この後、一人で考える→グループ(またはペア)で話し合う→全体で話し合うという流れがおすすめです。

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ここで小さい魚が協力して大きな魚になれた。
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みんなで協力して、大きな魚になれた。
スイミーは前はどうだった?
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前は「にげたのはスイミーだけ」だったけど、ここでは逃げないでみんなと一緒に泳いだ
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そうだね。
ほかにはどうかな?
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ここではじめてスイミーも大きな魚の一つになった。
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そうだね。その前まではスイミーは、外から「はなればなれにならないこと」「もちばをまもること」といって指示していただけだね。
そういえば、クライマックスはまえばなしと繋がっていることを確認したよね
そのことからどんなことが読めるか、もう一度グループで話し合ってみよう。

 グループでの話し合いを挟みます。

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スイミーは黒いから目になれた。
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スイミーが黒いことがとても役に立った。
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まえばなしで「みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。」とかかれていた。
そのことからの変化について話していたグループあったね。
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 まえばなしのときは、黒は少し残念だったけど、今は黒が大事って変わった。
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もし黒くないと目になれない。黒くてよかった。
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集団の中ではみんな同じことも いいことだけど、違うこともいいことだってことだよね。

 以上のようなやりとりで主題へと迫っていきます。

「スイミー」山場の鍵と主題を読み深める板書案

 拙著『物語・小説「読み」の授業のための教材研究 ―「言葉による見方・考え方」を鍛える教材の探究―』では、「スイミー」のさらに詳細な教材研究を掲載しています。ぜひご覧ください!

掲載教材:「スイミー」「お手紙」「一つの花」「大造じさんとガン」「海の命」「少年の日の思い出」「字のない葉書」「故郷」

 「スイミー」の授業は次回で最後になります。最後は「スイミー」の吟味よみです。

📕注:本文は、小学校国語教科書『こくご二上』(光村図書,2015年)による。教科書の分かち書きを通常の書き方に改めて引用した。

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して授業の助言・指導や講演を行なっている。