「ごんぎつね」の授業[3]形象よみ-どのようにして事件は起こったのか?[板書案]
【国語小4教科書掲載/光村図書出版ほか】
第三回目では、「ごんぎつね」の事件が動き出す展開部の形象や技法を捉えていきます。
「ごんぎつね」の展開部は、1の場面「ある秋のことでした。」から、5の場面の最後までの部分と長くなっています。「事件の発展」する箇所に着目し、読み解いていきます。
▶︎「ごんぎつね」の授業 全五回 [1] [2] [3] [4] [5]
今回は「形象よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「物語の新三読法について」と「形象よみの授業」をご覧ください。
「ごんぎつね」展開部の鍵の取り出し
今回は、事件の動き出す「展開部」の鍵の取り出しを行います。「ごんぎつね」の展開部は、1の場面「ある秋のことでした。」から、5の場面の最後までの部分です。
展開部における鍵の取り出しの指標は以下の通りです。「ごんぎつね」で着目すべきは、その事件がより大きく変化する節目、つまり「事件の発展」です。
構造よみのクライマックスへの着目の際に読みとったようにこの作品の事件は「ごんの兵十に対する見方」「兵十のごんに対する見方」のすれ違いです。展開部では、二人のすれ違いとごんの変容に着目します。
展開部・山場の「鍵」の取り出しの指標
- 事件の発展(←より主要な指標)
A.人物相互の関係性の発展
B.人物の内的・外的な発展
C.事件の発展とひびきあう情景描写 - 新しい人物像
発問例
この作品の「事件」ってなんだったっけ?
展開部ではどっちが大きく変化してる?
よし、ではこの場面から三箇所みつけてみよう。
以上のように展開部における鍵の取り出しを行なっていきます。
「ごんぎつね」展開部の鍵の読み深め
「ごんぎつね」展開部において、授業でぜひ取り上げたい「鍵」についてご説明します。
1.「いたずら」と「ぬすっと」すれ違いの始まり(1の場面)
二人のすれ違いはここから始まります。
ちょいと、いたずらがしたくなったのです。
ごんは兵十に軽くいたずらをしようと考えます。しかし、次の二箇所からも分かるようにごんは兵十の獲物を盗もうとはしていません。
ごんは、びくの中の魚をつかみ出しては(中略)川の中を目がけて、ぽんぽん投げこみました。
うなぎの頭をかみくだき、やっと外して、あなの外の草の葉の上にのせておきました。
「うわあ、ぬすっとぎつねめ。」
しかし、兵十はごんを獲物に手を出し盗もうとした悪ぎつねと考えます。
二人のすれちがい
- ごん→兵十に軽い気持ちでいたずらをしようとした。兵十の獲物を盗もうなどとは思っていない。
- 兵十→ごんは獲物に手を出し盗もうとしていた、評判どおりの悪ぎつね。
発問例
2.ごんのいたずらへの強い後悔(2の場面)
そのばん、ごんは、あなの中で考えました。「兵十のおっかあは、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで、兵十が、はりきりあみを持ち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎを取ってきてしまった。だから、兵十は、おっかあにうなぎを食べさせることができなかった。そのまま、おっかあは、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいと思いながら死んだんだろう。ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」
ここで、ごんの兵十に対する見方が大きく変化します。「事件の発展」です。
また、いたずらばかりしていたごんが「ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」と後悔するのですから、読者にごんの「新しい人物像」がみえる箇所でもあります。
ただし、ごんの悔恨の前提である「兵十のおっかあは(中略)うなぎが食べたいと言ったにちがいない」については何の確証もありません。
それも含めここから読めるごんの性格を否定・肯定の両面から考えてみます。
心の中のモノローグから読めるごんの性格
否定的に考える
- 思い込みの強い性格
- 子供っぽい
- 一方的に相手の気持ちを想像している
肯定的に考える
- 想像力が豊か
- 人の痛みに共感し、寄り添うことができる人物・性格。
- 自分を省みて、批判することができる。
- 細やかな気遣いができる。
そして、兵十はごんのこういった後悔を知るよしもありません。「ぬすっとぎつね」のままです。ごんが兵十に対する見方を変えたことで、結果として二人の相互の見方のズレが一層大きくなっているということになります。
発問例
3.「ひとりぼっち」への共感(3の場面)
「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か。」
導入部では、ごんが「ひとりぼっち」であることを語り手が説明する形でしたが、ここではごん自身が「ひとりぼっち」と認識しています。その上で兵十も「おれと同じ」と見ています。
- ごんは自分を「ひとりぼっち」と認識 → ごんは寂しさや孤独を抱えている
- ごんは兵十も「ひとりぼっち」と考える → 兵十も「寂しさや孤独を抱えている」と考える
ごんは兵十が寂しさや孤独を抱えていると考え、共感している
ごんは兵十が寂しさや孤独を抱えていると考え、共感しています。「ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」と比べても、ごんの兵十に対する見方がさらに変容していることがわかります。
もちろんこの瞬間も兵十にとってごんは「ぬすっとぎつね」のままですから、「ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」のとき以上に二人の相互の見方のズレは一層大きくなっています。
発問例
4.ごんのエスカレートする思い(3・4の場面)
うちの中へいわしを投げこんで、あなへ向かってかけもどりました。
(中略)
ごんは、うなぎのつぐないに、まず一つ、いいことをしたと思いました。
ごんのつぐないは、最初は「いわし」→次の日「くり」→次の日「くり」→次の日「くり」と「松たけ」と続いていきます。「4」の場面で兵十は「くりや松たけなんかを、毎日毎日くれる」と話すように、ごんは1日も欠かさずにつぐないを行います。
兵十のかげぼうしをふみふみ行きました。
ごんのつぐないのエスカレートと、5の場面にある上記文を合わせてよむとごんの兵十へのつぐないが、「つぐない」の域を超えはじめていることが読めます。
ごんは兵十に親しみあるいは思慕に近い気持ちをもち始めている可能性も読めます。
発問例
5.兵十への矛盾する気持ち(5の場面)
ごんは、「へえ、こいつはつまらないな。」と思いました。「これがくりや松たけを持っていってやるのに、そのおれにはお礼を言わないで、神様にお礼を言うんじゃあ、おれは引き合わないなあ。」
ごんは、自分で兵十に見つからないように用心しながらくりや松たけを置いているのだから、兵十が気がつかないのは当然です。それなのに「つまらない」「引き合わない」と思っています。この矛盾をどう見たらいいのでしょう?
- ごんは、兵十に見つからないように用心しながらくりや松たけを置いている。
- しかし、ごんは「つまらない」「引き合わない」と思う。▶︎矛盾
知らせないようにしているのに、知ってほしい
↓
ごんの兵十への強い思い、親しみ、愛情
自分では知らせないようにしているのに、知ってほしいと思うようなことは、実際にあることです。
たとえば恋愛などは、自分では好意を相手に知らせないようにしているくせに、知ってほしい、気づいてほしいと思うことが少なくありません。そこからもごんの兵十への見方の強さを読むことができます。
ただし、「つまらない」「引き合わない」と思ったのならつぐないをやめるという選択も、ごんにはあったはずです。しかし、ごんは、6の場面で「その明くる日も」兵十のところへ行きます。それが悲劇を生むことになります。
発問例
どうして自分でわからないようにしているくせに「引き合わないなあ。」なんて思うのかな?
「ごんぎつね」展開部を読み深める板書案
展開部の2.ごんのいたずらへの強い後悔(2の場面)と3.「ひとりぼっち」への共感(3の場面)を読み深める板書案です。
拙著『増補改訂版 国語力をつける物語・小説の「読み」の授業 ―「言葉による見方・考え方」を鍛えるあたらしい授業の提案 』では、「ごんぎつね」の更に詳しい教材研究を紹介しています。ぜひご覧ください!
掲載教材:「モチモチの木」「ごんぎつね」「走れメロス」
次回は山場の形象を読み深めていきます。
📕注:本文は、小学校国語教科書『国語四・下』(光村図書出版,2015年)による。