「字のない葉書」の授業[4]形象よみ-山場を読み深め、主題を掴む[板書案]
【国語中1〜中2教科書 掲載/光村図書出版ほか】
今回は、山場の形象や技法を捉え、主題へと迫っていきます。
▶︎「字のない葉書」の授業 全五回 [1] [2] [3] [4] [5]
今回は「形象よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「物語の新三読法について」と「形象よみの授業」をご覧ください。
「字のない葉書」山場の鍵の取り出し
今回は、「字のない葉書」の山場から鍵(重要な語や文)の取り出しを行います。
山場の鍵の指標は、展開部と共通しており、以下の2つです。今回は、山場を読み深めながら、作品の主題へと迫っていきます。
展開部・山場の「鍵」の取り出しの指標
- 事件の発展(←より主要な指標)
A.人物相互の関係性の発展
B.人物の内的・外的な発展
C.事件の発展とひびきあう情景描写 - 新しい人物像
「字のない葉書」山場の鍵の読み深め
作品で最も重要な鍵は、クライマックスです。今回は、クライマックスに絞って形象を読み深めます。
1.クライマックスでの父の描写を読む
以下がこの作品のクライマックスです。
末の妹からの葉書の内容が◯から×に変わり、やがて葉書が来なくなる中で、父がどんな気持ちでいたかということが、このクライマックスにおいて初めて明かされます。
茶の間に座っていた父は、はだしで表へ飛び出した。防火用水桶の前で、やせた妹の肩を抱き、声を上げて泣いた。私は父が、大人の男が声を立てて泣くのを初めて見た。
クライマックスを読み深めていきます。
父の姿の描写を読む
- 「茶の間に座っていた」
▶︎表面上は家族には「家父長」らしく普段どおりであるかのような姿を見せていた。この直後の行動から実は大きく気を揉み、末の妹の帰りを待ちわびていたことがわかる。 - 「はだしで表へ飛び出した」
▶︎大人が靴をはかず表へ飛び出すなど、よほど緊急の時以外にありえない。当時の感覚からいえば、特に大人の男が普通見せることはない姿。(A) - 「声を上げて泣いた」
▶︎戦後しばらくまで「男は人前で泣くものではない」と言われていた。戦中はより憚られていた。しかも、ぐっと抑えて泣くのではなく「声を上げて」泣く。家族もいる、近所にも聞こえるかもしれない。(B) - 「防火用水桶の前」
▶︎おそらくは家の前の路上。近所の人から見られる可能性もある。(C) - 「やせた妹の肩を抱き」
▶︎親が子を抱きしめるということは、当時はめずらしいことだったと考えられる。(D)
A〜Dの父親のなりふり構わない姿からは深い心配が読み取れる→普段の「暴君」的な父親像とは全く対照的な姿
発問例
「茶の間に座っていた父は、はだしで表へ飛び出した。」とどう違う?
2.クライマックスでの「私」の衝撃を読む
そんな父の姿を初めてみた「私」の衝撃を読んでいきます。
「私」の衝撃を読む
- 「私は父が、大人の男が声を立てて泣くのを初めて見た。」
▶︎いつもは「暴君」の父親が、全く予想外な姿を見せたことへの驚き。導入部に「最も心に残るものをといわれれば、~あの葉書ということになろう。」とある。そのとおり、31年経っても「私」の中で強く忘れられない出来事として残り続ける。 - 「大人の男が」
▶︎「父」を「大人の男」と言い換えている→堤喩表現
▶︎当時は大人の男が人前で泣くことは稀であった。「私」はそれまで大人の男が人前で泣く姿など見たことがなかった。ところが、目の前で「大人の男」が泣いている。それも「声を立てて」泣いている。そして、その「大人の男」は他ならなぬ父であった。「私」にとっての衝撃性・意外性がより累加される。
「私」が強い衝撃を受けていることが分かる→31年経っても忘れられないほどの衝撃
読者は、「茶の間に座っていた父は、はだしで表へ飛び出した。防火用水桶の前で、やせた妹の肩を抱き、声を上げて泣いた。」で意外な父親の姿に衝撃を受けます。そして、次の「私は父が、大人の男が声を立てて泣くのを初めて見た。」で「私」も強い衝撃を受けたことを知り、そこに読者が共感するという仕掛けになっています。
発問例
でも、どう思ったかはわかるよね。それはどの言葉から?
「私は父が、大人の男が声を立てて泣くのを初めて見た。」と「大人の男が」がある場合とない場合と、どう違う?
3.主題を掴む
上記のクライマックスの読み、これまでの導入部・展開部の読みを統合し、「字のない葉書」の主題へと迫っていきます。
「字のない葉書」からはさまざまなことが読めますが、私はこの作品の主題を次のように考えます。
- よく知る存在(家族など)でも、普段とは全く逆の一面を発見をすることがある。
- 感情が大きく揺さぶられる経験は、何十年経っても記憶に残り続けることがある。
発問例
「字のない葉書」山場を読み深める板書案
授業では、導入部で説明されていた暴君的父親像を再確認し、クライマックスでの父親の姿や私の衝撃との対比を確認していきます。導入部の暴君的父親像等が伏線であったことがここで明らかになります。
拙著『物語・小説「読み」の授業のための教材研究 ―「言葉による見方・考え方」を鍛える教材の探究―』では、「字のない葉書」のさらに詳細な教材研究を掲載しています。ぜひご覧ください!
掲載教材:「少年の日の思い出」「字のない葉書」「故郷」「スイミー」「お手紙」「一つの花」「大造じいさんとガン」「海の命」
次回は「字のない葉書」の最終回です。「字のない葉書」を主体的に読んでいきます。
📕注:本文は、中学校国語教科書『国語2』(光村図書出版,2016年)による。