「ありの行列」の授業[3]吟味よみ-文章を吟味・評価する[板書案]

「ありの行列」の授業[3]吟味よみ-文章を吟味・評価する[板書案]
今回の教材:「ありの行列」筆者:大滝哲也
【国語小3教科書掲載(光村図書出版)】
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前回は、「ありの行列」の論理関係を読みとりました
最後の今回は「ありの行列」の文章の良い点やわかりにくい点に着目し、吟味・評価していきます。

▶︎「ありの行列」の授業 全三回 [1]  [2]  [3]

今回は「吟味よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「説明的文章の新三読法について」と「説明的文章の吟味よみ」をご覧ください。

「ありの行列」の吟味よみ

 「吟味よみ」では、文章の工夫やわかりにくい点を吟味していきます。今回はそれぞれ一つずつ紹介します。(着目の指標についてはこちらをご覧ください。)

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Point
光村図書出版の国語教科書を使用している小学3年生にとって、「ありの行列」で初めての論説文です
論説文は、自らの仮説を述べる文章ですから、その論証の仕方・説得力などに着目して吟味をしていきます。

文章の工夫: 推理の展開を示すことで説得力が増している

  文章の工夫としては、なか1→なか2で推理の展開を示すことで説得力を増している点が挙げられます。

 「ありの行列」では、はじめに文章全体を貫く問題提示「なぜありの行列ができるのか」があります。

 その問題に対応する仮説(結論)を導き出すため、なか1では「二つの実験」が示されます。そして、その実験をもとに「考察(ありが道しるべになるものをつけておいたのではないか)」を行います。

 なか2では、その考察を確かめるために「研究(ありの体を調べる)」を行い、そこから「ありの行列ができる理由」=「においによる道しるべ」を導き出します。

 なか1→なか2を通して筋道だったウイルソンの「推理」の展開を示すことで、読者は推理の流れを追体験します。それによって納得感が増すのです。

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Point
「推理」は、辞書には「既にわかっている事柄をもとにし、考えの筋道をたどって、まだわかっていない事柄をおしはかること」などと書かれています。
ウイルソンがありの行列ができる理由を知るために行っているのは、推理そのものです。
「推理」という言葉は、探偵もののアニメなどで聞くこともあるでしょうから、子どもたちにとって比較的馴染みのある言葉かと思います。
授業では「推理」の意味を丁寧に確認しながら、論説文では重要な用語であることを指導してほしいと思います。

もし推理の展開を示さないとすると…

 もしオリジナルの文章のような推理の展開を示さないと、どのような文章になるでしょうか。なか1の実験と考察を短くまとめ、なか2の研究から詳しく述べるとたとえば次のようになります。

 なぜありの行列ができるのでしょうか。
 アメリカにウイルソンという学者がいます。

 ウイルソンは実験・考察をしながら、はたらきありの体の仕組みを細かに研究してみました。すると、おしりのところからとくべつのえきを出すことがわかりました。・・・

 これでも文章としては成り立ちますが、ウイルソンの丁寧な推理の過程は見えてきません。
 なか1の二つの実験とそれをもとにした考察があることで、読者はなか2でありの体を研究する必然性を理解します。推理の展開を示すことがウイルソンの仮説の納得度を高めているのです。

まとめ

  1. ウイルソンの二つの実験とそれに基づく考察を示した上で、後半の研究を提示することで、筋道だった推理の展開が読者に伝わる。
    →納得感が増す。文章の論理の流れや方向が見えてくる。
  2. 科学的な推理を行う時は、実験と考察、研究と考察などを筋道立てて組み立てていく。

発問例

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❶「ありの行列」ができる理由を調べるために、ウイルソンが行なったことはなに?
❷どういう順番で行われたんだっけ?
❸なんでそういう順番で行われたの?
❹なか1が短くまとめられていたら(上述)だったらどうだろう?
実験や観察、研究をしながら、わからないことについて考えて仮説(結論)を出そうとすることを「推理」と言います。

❻その推理の流れが示されているから、ウイルソンの考えたありの行列ができる理由に納得できるんだね。

文章のわかりにくい点: 実験2が行われた理由がつかみにくい

 不十分な点としては、なか1の「実験2」が行われた理由がつかみにくい、ということが挙げられると思います。

 「ありの行列」では、実験1と実験2は続けて書かれ、その後に「考察」が示されます。
 しかし、実際にはウイルソンは実験1の結果を基になにかを考察し、それを確かめるために実験2を行なったはずです。
 実験1のあとにウイルソンの考察がかかれていないため、読者にとって実験2の意味がつかみにくくなっているのす。

ウイルソンは実験1のあと何を考察し、実験2を行なったのか


 実験1でウイルソンが何を考察し、なぜ実験2を行なったのかを整理して考えてみます。

実験1

  1. 内容:ありの巣から少し離れたところに砂糖を置く。
  2. 分かったこと:巣から離れたところに砂糖をおいても、ありは行列をつくる。その行列は、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじから、外れていない。
  3. ウイルソンが考察したであろうこと:ありは目が悪いのに砂糖のところまで行列をつくった。しかも、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじから外れていない。ということは、はじめのありが地面になにか道しるべになるものをつけておいたのではないか。
  4. ウイルソンはなにを考えて実験2を行なったのか:ありがなにか道しるべになるものをつけていたならば、その道しるべを塞ぐとどうなるのだろう。混乱が起きるのではないか。

 もし実験1のあとに上の3.や4.のようなウイルソンの考察・問いが入れば、実験2を行なった理由がつかみやすかったはずです

発問例

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❶二つの実験からウイルソンが導き出した考察は何だった?
❷では、実験1でわかったことはなに?
❸それからどんなことを考えてウイルソンは実験2を行なったんだろう。
❹実験1のあとにウイルソンの考察を入れてみよう。

「ありの行列」吟味よみの板書案

 「ありの行列」のわかりにくい点を吟味する授業を板書に落とし込むと次のようになります。

 拙著『文章吟味力を鍛える—教科書・メディア・総合の吟味』では、評価する力と批判する力の双方を含む「吟味力」の理論や実践例を解説しています。

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「ありの行列」の授業を最後までお読みいただき、ありがとうございました!

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して授業の助言・指導や講演を行なっている。