「一つの花」の教材研究[1]構造よみ-クライマックスの根拠を探る

「一つの花」の教材研究[1]構造よみ-クライマックスの根拠を探る
今回の教材:「一つの花」今西祐行 作
【国語小4教科書掲載/光村図書出版ほか】
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「一つの花」(今西祐行)は、小学校4年生の国語教材です。
これから「一つの花」の授業で役立つ教材研究や発問例を提案していきます。
第一回目では、「一つの花」の作品の構造を捉えていきます。「一つの花」のクライマックスをどう捉えていくかがポイントとなります。

▶︎「一つの花」の教材研究 全四回 [1]  [2]  [3] [4]

今回は「構造よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「物語の新三読法について」と「構造よみの授業」をご覧ください。

「一つの花」(今西祐行)とは?

 「一つの花」は、太平洋戦争末期の日本が舞台です。主人公・ゆみ子のお父さんが招集され出征することになります。それをお母さんと娘のゆみ子が見送りに行くという物語です。
 題名のとおり「花」が重要な意味を持ちます。

「一つの花」の授業ポイント

 「一つの花」は、導入部(まえばなし)の人物・時などの設定、お父さんの出征、お母さんとゆみ子の見送り、お父さんのゆみ子へのコスモスの花の贈呈、戦争後のあとばなしなどにより成立しています。
クライマックスでそれまでの事件が収斂され、主題を前面に示すかたちになっています。

「一つの花」授業ポイント

  1. クライマックスがどこかの確認と、なぜそこがクライマックスなのかの解明。
  2. クライマックスに向けて仕掛けられた伏線を展開部・山場から見つけだし読み深める。
  3. 伏線とクライマックスの関係を中心に主題を把握し、作品を多面的に評価する。

「一つの花」の作品構造

 まずは構造を読んでいきます。この作品は、導入部―展開部―山場―終結部の四部構造です。

導入部

 「一つの花」の冒頭は次のとおりです。

 「一つだけちょうだい。」
 これが、ゆみ子のはっきりおぼえた最初の言葉でした。

 導入部では、ゆみ子とその父と母の繰り返されている日常が示されます。「日常」と言っても、戦時中で「毎日、てきの飛行機が飛んできて、ばくだんを落としていきました。」という異常な日常です。

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Point
導入部後半では、会話があり一見「ある日ある時」の描写のようにも見えますが、「そんなとき、お父さんは、きまってゆみ子をめちゃくちゃに高い高いするのでした。」とあります。「そんなとき」「きまって」ということは、一度だけの出来事でなく、そういうことが何度も繰り返されていることを示しています。

展開部

発端

 ゆみ子のお父さんの出征が事件の発端になっています。「お父さん・ゆみ子たち家族と戦争という状況とが、出征というかたちで深く関わっていくという事件」です。 

 それからまもなく、あまりじょうぶでないゆみ子のお父さんも、戦争に行かなければならない日がやって来ました。

 それまでの導入部では、日常のようすを説明していましたが、ある日ある時の出来事に書き方が変わります。説明から描写への変化です。
 ゆみ子たち家族は出征するお父さんを見送りに遠い汽車の駅へ向かいます。その見送りの中でお父さんとゆみ子、お母さんとお父さんの具体的な関わりが展開されます。

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Point
「一つの花」の場合は、2が該当せずに3.人物がこれまでにない状況とそこで出会うが該当します。

山場

 ゆみ子たち家族はプラットホームの端の方で小さく万歳をしたり歌を歌ったりしていました。しかし、ゆみ子が「一つだけちょうだい。」とぐずり始めます。これがクライマックスに直接的につながります。ここから山場が始まります。

 ところが、いよいよ汽車が入ってくるというときになって、またゆみ子の「一つだけちょうだい。」が始まったので

クライマックス

 次にクライマックスに着目します。クライマックスとは次のような部分です。

 「一つの花」のクライマックスは次の部分です。ここがクライマックスだということは、授業でもそんなに意見が割れることはないかと思います。

 「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。一つだけのお花、大事にするんだよう——。」
 ゆみ子は、お父さんに花をもらうと、キャッキャッと足をばたつかせてよろこびました。

 しかし、その根拠を考えようとすると、それを明確にするのは意外と難しいのです。
 「ゆみ子が泣き止んだ。」くらいまではすぐわかるのですが、「ゆみ子が泣き止むだけでクライマックスとするのは弱いのでは」「それ以外の根拠は?」などと聞いても、子どもたちからすぐには答えが出てこないことが少なくありません。そのため、授業ではその理由の探究が大事な要素となります。
 すると、だいたい次のような理由がだんだんと見つかってきます。

「一つの花」クライマックスの特徴

  1. 泣いていたゆみ子が、足をばたつかせて喜ぶ。(人物の大きな変化)
  2. 会話文で、極めて描写性が高い。(描写の密度の高さ)
  3. この作品のキーワード「一つだけ」が繰り返されている。(表現上の工夫)
  4. 「――」という表現が使われている。(表現上の工夫)
  5. 「一つだけ」がこれまでの意味から180度、転換する。(主題との深い関わり)
  6. 二度と会えないであろうゆみ子との最後の別れで形見としての「花」、遺言としての「言葉」を送っている(主題との深い関わり)
  7. 花のもつ象徴性が最も前面に出る。(主題との深い関わり)

 構造よみの段階では、1〜4の指摘までを明確にしていけばよいと思います。
 56・7は、次回以降の形象よみで明らかにしていきます。

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Point
構造よみでは、いくつかの根拠を仮説的に出しておいて、それを形象よみで深めていくというつもりで授業を進めばよいのです。

終結部

 終結部の始まりは次です。

 ここに、戦争に行ったお父さんの姿はありません。しかし、ゆみ子とお母さんのつつましいけれども幸せそうな姿が描かれます。
 終結部で重要なのは、二人の住んでいる家の庭にコスモスの花がいっぱいに咲いていることです。これは、クライマックスでお父さんがゆみ子に渡した「一つだけのお花」に深く関わります。

クライマックスの理由を探る授業展開・発問例

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「一つの花」のクライマックスについては「「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。〜足をばたつかせてよろこびました。」ではないかという意見が多かったのですが、なぜここがクライマックスといえるのかその理由を考えていきましょう。

 クライマックスだと考える箇所とその理由を、まず個人で考え、次にグループで話し合いますその後の学級全体での読み取りを行います(探究型授業で行うのがおすすめです)。
 その際にクライマックスの指標を生かしながら、考えさせます(クライマックスの指標についてはこちら)。

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ここでは、泣いていたゆみ子がお父さんに花をもらって足をばたつかせて喜びます。ゆみ子の大きな変化があることがクライマックスの理由です。
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そうだね!大きな変化だ。
表現の工夫はある?
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さっき出た「一つだけ」の繰り返しと、「するんだよう」の後の「--」の記号です。
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「一つだけ」という言葉は、「一つの花」という題名にも関わってきます。2回も出てるので、とても大事な場面だと思います。
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お花を上げることについて話し合っていたグループあったよね。
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お父さんがゆみ子にあげた花は、お父さんが最後にあげたプレゼントです。終結部では、そのコスモスの花が庭いっぱいに咲いていてつながっているので、ここがクライマックスです。
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もう二度とゆみ子に会えないと思っているお父さんが、ゆみ子に形見として花を上げるって、戦争の中ではとても大切なことのような気がします。

 以上のように授業を進めていきます。

 拙著『物語・小説「読み」の授業のための教材研究 ―「言葉による見方・考え方」を鍛える教材の探究―』では、「一つの花」の詳細な教材研究を掲載しています。ぜひご覧ください!

掲載教材:「少年の日の思い出」「字のない葉書」「故郷」「スイミー」「お手紙」「一つの花」「大造じいさんとガン」「海の命」

次回は、形象よみに入っていきます。まずは導入部の形象を読み深めていきます。この作品のキーワード「一つだけ」も読んでいきます。

📕注:本文は、小学校国語教科書『国語四・上』(光村図書出版,2015年)による。

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して授業の助言・指導や講演を行なっている。