「スイミー」の授業[3]形象よみ-導入部の鍵を読む[板書案]

「スイミー」の授業[3]形象よみ-導入部の鍵を読む[板書案]
今回の教材:「スイミー」レオ=レオニ 作・絵/谷川 俊太郎 翻訳
【国語小2教科書 掲載/光村図書出版・東京書籍ほか】
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「スイミー」の授業[1]では全体像(構造)を掴み、[2]ではクライマックスを捉えました。
今回からは、「スイミー」の形象や技法を見ていきます。
物語の中でもより重い役割を担う語・文=「鍵」に着目し、内容や表現にこだわりながら読み深めていきます。

▶︎「スイミー」の授業 全六回 [1] [2] [3] [4] [5] [6]
 
※今回は「形象よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「物語の新三読法について」と「形象よみの授業」をご覧ください。

「スイミー」から重要な語や文=「鍵」を探す

  今回からは、「スイミー」の重要な語や文=鍵に着目し、形象や形象相互の関係を読み深めていきます。授業では、鍵の取り出し→鍵の読み深めという流れになります。

「スイミー」導入部の鍵の取り出し

 「スイミー」導入部の鍵の取り出しを行います。
 導入部における鍵の着目の指標は下記の五つですが、「スイミー」では「1.人物」に絞って考えていきます

 導入部の「鍵」の取り出しの指標

  1. 人物の設定(主要人物の性格や癖、外見、得意なこと、職業や家族や人間関係など)
  2. 時の設定
  3. 場の設定
  4. 先行事件(エピソードなど人物・時・場以外の設定)
  5. 語り手(語り手設定、語り手による予告・解説)

 ▶︎導入部の鍵の取り出し指標について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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導入部の「鍵」の取り出しの指標の五つは、すべての導入部に常に含まれるわけではありません。また、仮に五つが読める場合でも、「人物」は必須としても、それ以外は授業のねらい、子どもの学習の到達度により選択していくことが大切です。「語り手」については小学校上学年頃からの着目でよいと考えます。

例)「スイミー」導入部で鍵を取り出す授業の発問

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まえばなしでは人物の紹介がされているね。まえばなしで特に大切な人物の紹介はどこの部分かな?
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「みんな赤いにの」のところだと思います。
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「およぐのは、だれよりもはやかった。」です。
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どれも大事そうだね。
もう一つだけ大事な紹介があるんだけどな。
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「名前はスイミー。」のところ!
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名前だね!物語では実は名前ってとても大切な人物紹介なんだよ。

「スイミー」導入部の鍵の読み深め

 「スイミー」の導入部において、ぜひ授業で取り上げたい二箇所の「鍵」についてご説明します。

鍵1.みんな赤いのに〜まっくろ。

 まず、「スイミー」の導入部では次の一文のもつ意味が大きいと思います。

 みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。

 普通なら「スイミーはくろかった。」という紹介で十分です。
 しかし、ここではスイミーの「くろ」を何重にも強調しています。丁寧に見ていくと、ここには次の七つの技法・工夫が含まれていることがわかります。

  1. 「まっくろ」という体言止めによる強調
  2. 「まっくろ」の「真」という接頭語による強調
  3. 「からす貝より」と比べそれ以上という比況による強調(「からす貝」の「からす」もともとは隠喩)
  4. 「だけ」という限定による強調
  5. 「みんな」と「一ぴき」の数の対比による強調
  6. 「赤」と「くろ」という色の対比による強調
  7. 「のに」→逆接的な意味をもつ助詞による強調

 7.の「のに」は逆接というだけでなく、本来であればそうあってほしくない、期待と違うという見方が含まれ、スイミーの「くろ」が異質なものとして、やや否定的に扱われていると読めます。

 そして、この「くろ」の強調がクライマックス「ぼくが、目になろう。」で生きてきます。導入部ではやや否定的に語られていた「くろ」という属性が、(クライマックス部分で)肯定的な役割を果たします、異質性が集団を救うというこの作品の主題の一つが見えてきます。

例)「みんな赤いのに〜」を読み深める発問

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では、「みんな赤いのに」から読んでいこう。
この文からどんなことがわかる?
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スイミーがとっても黒いこと。
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「スイミーはくろかった。」って言うだけでもいいのに、ここではわざわざ「みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。」って、ずいぶん黒を強調してるね
では、その強調の秘密をみんなと解き明かしていこう。ここで黒を強調するために文にどんな工夫があるか、探してみよう

 この後、一人で考える→グループ(またはペア)で話し合う→全体で話し合うという流れがおすすめです。

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「まっくろ」ってただ黒いより、もっと黒い。
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いいね。「まっくろ」と「くろ」違うよね。「まっ」がついてる。これは漢字で「真」なんて書くよね。(高学年だと「接頭語」と教えます。)その「まっくろ」には、もう一つ工夫があるよ。
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「まっくろ」で文が終わっている。
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そうだね。普通なら「まっくろだった。」と書くところを、ここでは「まっくろ」で止まっているね。こういうのを「体言止め」っていうんだよ。

 以上のようなやりとりで読み解いていきます。

鍵2.名前はスイミー。

 導入部で、もう一つぜひ着目していただきたいのは次の文です。

 名前はスイミー。

 物語や小説では人物の名前が重要な意味をもち、名前そのものに特徴や性格、出自などが暗示されることが多々あります。「スイミー」は「Swimmy」。「swim」=「泳ぐ」という動詞が含まれ、スイミーの泳ぎの上手さを暗示しています。実際、本文には「およぐのは、だれよりもはやかった。」とあります。

例)「名前はスイミー。」を読み深める発問

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「スイミー」この名前からどんなことがわかる?
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「ミー」って伸ばしているから速そうなかんじがする。
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速そうなかんじがするね。
「スイミー」にはある大切な言葉が隠されています。それは何かわかるかな?
みんなが夏になるとすること。そういう教室に通っている人もいるかもしれない。
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スイミング!スイミングと似てる
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スイムって聞いたことある
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スイムってどういう意味?
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泳ぐことかな。
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そう。「スイム」は英語で書くと「swim」。そして「スイミー」は「Swimmy」なんだよ。泳ぐという言葉が入った名前。ということは?
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泳ぐのが上手。
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そうだね。その前に「およぐのは、だれよりもはやかった。」ってあるけど、名前にもそれが入っている。
実は物語では、名前の中にその人の特徴が入っていることが意外とあるんだよ。

「桃太郎」もそうだね。みんなのよく知っている「スヌーピー」も実はそうなんだよ。 

 以上のようなやりとりで読み解いていきます。

「スイミー」導入部の鍵を読み深める板書案

 拙著『物語・小説「読み」の授業のための教材研究 ―「言葉による見方・考え方」を鍛える教材の探究―』では、「スイミー」のさらに詳細な教材研究を掲載しています。ぜひご覧ください!

掲載教材:「スイミー」「お手紙」「一つの花」「大造じさんとガン」「海の命」「少年の日の思い出」「字のない葉書」「故郷」

📕注:本文は、小学校国語教科書『こくご二上』(光村図書,2015年)による。教科書の分かち書きを通常の書き方に改めて引用した。

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して授業の助言・指導や講演を行なっている。