PISA「読解力」15位の要因を探る-原因の特定と改善の方向性

PISA「読解力」15位の要因を探る-原因の特定と改善の方向性

 各国の15歳の子どもを対象に行われる学力調査・PISA(生徒の学習到達度調査)。2018年に行われた調査では、「読解力」について日本の国際的な順位が15位と大きく下がった。その要因と対策について論じる。

理想教育財団『季刊理想』2020年春号(VOL.135)に寄稿したものを再掲します。

「評価し、熟考する」設問に大きな弱点

 OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに実施しているPISA(生徒の学習到達度調査)が2018年に行われた。各国の15歳の子どもを対象に行われる学力調査だが、その「読解力」について、日本の国際的な順位が15位と大きく下がった。前回2015年の「読解力」は8位だった。大幅な低下であり、事態を軽く見ることはできない。

 「読解力」問題の中には、大きく①「情報を取り出す」設問 ②「理解する」設問 ③「評価し、熟考する」設問があるが、日本の子どもが特に悪かったのが③「評価し、熟考する」ものである。「このような文で終わるのは適切だと思いますか」「どちらに賛成しますか」「適切ですか、適切でないですか」「理由は」「あなたは原因を何だと思いますか」など、取り上げられている事柄を多面的に評価したり批判したりすることを求める設問である。今回OECD加盟国の平均正答率を日本の子どもが10ポイント以上下回った設問が「読解力」では14題あったが、その中の9題が「評価し、熟考する」ものだった。 PISA「読解力」の定義は、少しずつ改定されているが、今回2018年は「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、これに取り組むこと。」となった。今回新たに加わったのが「評価」という言葉である。同時に、その定義に基づき「読解力」で「測定する能力」も示されているが、そこに「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」が新たに加わった。日本の子どもたちが弱かったのは、まさにこれらの部分なのである。

「読解力」低下の要因を探る

 今回のPISA「読解力」低下の理由として、たとえば日本の子どもたちが「コンピューターを使った解答の仕方に不慣れ」なことを上げている研究者がいる。また、日本の子どもの「読書量の少なさ」を上げる研究者もいる。

 しかし、コンピュータが原因だとすると、「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」がまずまず良好な結果であったことの説明がつかない。また、コンピュータによる調査になったのは前回2015年からである。これが主要な原因とは考えにくい。ICTを強化すれば「読解力」が上がるというわけにはいかない。読書量も確かにある程度まで関わりがあるかもしれないが、それは今に始まったことではない。特に今回2018年の低下の主要な原因とは考えにくい。

 私は、「読解力」低下の主要な原因は、日本の国語の授業のあり方にあると考える今回特に重視された「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」ことを大事にするような国語の授業が、日本ではそもそも極めて少ないということが大きく関わる。小学校、中学校、高校を通じて、文章や作品を評価したり批判したりする授業、そしてそれについて論議したり表現したりする授業が圧倒的に少ないのである。

 2017年・18年の学習指導要領の国語では、文章や作品を「批判的に読む」要素を重視すべきことが明記された。現在の国語教科書に中にも、たとえば「あなたは筆者の主張に納得しましたか、疑問がありますか」と批判的読むことを促す学習頁が設定されている。しかし、2017年・18年の学習指導要領が完全実施されるのは、2020年4月以降である。やっとこれから動き出すという段階である。また、それを先取りして批判的読解を促す教科書の学習頁があっても、現場の先生方がそれを十分に生かすことができていないという現実がある。今回のPISAの生徒質問調査でも「国語の授業で先生は生徒に対し、文章について意見を言うように勧めている」と思っている日本の子どもの割合は、OECD平均を下回っている。小中高ともに、国語を指導する先生方が、「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」ことを大事にするような国語の授業に慣れていないのである。

大学の教員養成課程、教育委員会、学校現場の改革が必須

先生自身も、小中高と(さらには大学でも)文章や作品を評価的批判的に読み、それに基づいて自分の見解を表現するという学習をしてきていない。教員養成系大学の国語科教育法の授業でも、評価的批判的な読解の指導方法を取り上げているものは、限定的である。自分自身の経験でも、大学の教員養成課程でも、さらには県や市町村の教育委員会の研修でも、そういうことを重視した授業・指導法に先生方が出会う機会がないのである。

 大学の教員養成課程、教育委員会研修、各学校での研修を改革・改善し、日本の国語の授業を変えていくことが、今こそ求められる。それらを丁寧にそして直ちに実行していかない限り、日本の子どもたちに「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」力が育たないままに10年・20年と時間が過ぎていくことになる。私自身も1990年代から評価力・批判力を国語の授業で育てるべきことを強く主張してきた。これらの力は、これからの世界・社会を主体的に生きる子どもたちにとって必須の学力である。民主主義も、すべての国民にこれらの力が備わってこそ健全に機能する。

 今回のPISA「読解力」15位を、日本の教育の弱点を顕在化させてくれたものとして前向きに捉え、国語の授業を改革・改善していくことが、今求められている。

*2019年12月4日付の朝日新聞・社説で阿部のPISAに関する研究が紹介されました。学校現場では批判的な読みの授業が極めて少ないという阿部の指摘を取り上げています。

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して行った授業の助言・指導、講演は1000回を超える。