秋田県の学力トップクラスの要因とこれからの課題

秋田県の学力トップクラスの要因とこれからの課題

秋田県の学力トップクラスの要因とこれからの課題について論じます。

※秋田県検証改善委員会の『学校改善支援プラン』(2019年)に掲載された文章を一部修正し、再掲します。秋田県検証改善委員会は、全国学力・学習状況調査の秋田県の結果を分析・検討し提言を行う委員会で、秋田県教育委員会内の組織です。阿部は、秋田県検証改善委員会 委員長を12年間つとめてきました。

秋田県の学力トップクラスの要因とは?

理由1:秋田県の「探究型授業」が「深い学び」を生み出している

 秋田県の子どもたちは、全国学力・学習状況調査で今年度も全国トップクラスの成果を達成してくれました。無回答率も、例年どおりたいへん低い。これは、何といっても探究型授業を創りだしている秋田県の先生方の授業力の高さによるものです。子どもの「主体性」を大切にし、豊かな「対話」をさせながら「深い学び」を生み出していく探究型授業を展開する高い指導力を秋田県の多くの先生方が持っているからです。

 そういう中、多くの教科の授業で「深い学び」にかかわる各教科の「見方・考え方」(認識方法・思考方法)も、秋田県では丁寧に育てられています。

理由2:秋田県には質の高い「共同研究集団」が数多く存在している

  今、世界から日本の「授業研究」が注目されています。海外では、教師相互で授業を参観し合い、それを共同で検討しながら質の高い授業を作り出すといったシステムが、限定的にしか存在していません。ですから、日本の「授業研究」システム(Lesson study,Jugyoukenkyuu)を取り入れようという国が増えつつあります。そして、モデルとなっている日本の中でも、秋田県は共同研究に関しても先進地域と言えます。

 たとえば事前研究をチームで繰り返し行い、最終段階で緻密な「模擬授業」を展開し、授業を完成していくというスタイルの学校がいくつもあります。それ以外にも多くの学校で、事前研究の質を上げるための積極的な取り組みが成果を上げています。秋田県には質の高い「共同研究集団」が数多く存在しているのです。

  優れた教育が展開されている秋田県だからこそ、あえて4つの課題を申し上げます。

秋田の教育におけるこれからの課題

課題1:目標が曖昧になっていないか

 まず第一に、優れた探究型授業が多い中でも、授業や単元のねらい・目標が曖昧なままの授業も、まだ一部にあるようです。たとえば算数においては、「分数×分数のかけ算の計算の仕方を考える。」、国語においては「(「ごんぎつね」の)ごんの心情の変化を理解する。」などのねらい・目標があります。大切なのは、算数では「分数×分数の計算の仕方」をどのような筋道で考えさせ外言化させるかです。たとえば「分母と分母をかけることの意味を言葉や図を使って説明できるようにする。」まで意識しないと学びは深くなりません。
 国語教材「ごんぎつね」の「ごんの心情の変化」は表層をなぞっただけでもわかります。変化の中の特にどの部分の変化にこそ着目させるか。そのことを文脈・構造にどう結びつけさせるかを意識することが大切です。「クライマックスを意識しながら(伏線としての)変化の節目に着目させる。」などまでのねらい・目標が必要です。そこまで意識し指導案に明記すべきです。

 子どもたちが今到達している地点から、新しい地点に飛躍させていくことこそが授業の役割です。その飛躍点・跳躍点を具体的に明確にすることが、「深い学び」の鍵と思います。残念ながら、小中、教科、地域によって、この部分はまだ不安定な部分があると考えます。具体的で切れ味のあるピンポイントの到達点を意識しないと深い学びは生まれません。

課題2:甘いままの教材研究に妥協していないか

 ねらい・目標が曖昧になる大きな原因の一つが、教材研究の甘さです。教材の内容を理解し確認するだけでは教材研究とは言えません。一見だけではわからないこと、追究しないと見えてこないことを解明していくのが教材研究です。

 「y=axが成り立つとき、yはxの関数であるという。」――これを確認しているだけでは教材研究ではありません。なぜ「y=axが成り立つとき、xはyの関数であるという。」とは普通言わないのでしょう。「義和団事件」は19世紀末に中国で起りましたが、これを「義和団運動」としている場合があります。この呼称の違いにはどういう意味があるのでしょうか。国語教材「お手紙」は謎が6つあります。6つの謎はすべて「お手紙」の主題に収斂します。その謎は何なのでしょう。妥協しないで深いレベルまで教材研究を深めれば、ねらい・目標も「深い学び」を導き出す切れ味あるものになります。 ①言語に徹底してこだわる ②構造的・文脈的に見る ③多面的・多角的に見る ④批判的・評価的に見るなどを指標に教材研究を深めていっていただきたいと思います。「浅い教材研究」からは「浅い学び」しか生まれません。

課題3:「探究」が活動主義になっていないか

 探究型授業は、子どもたちの主体的な学び、対話的な学び、深い学びを創りだします。ただし、一つ間違うと華やかな活動だけが目立ち、子どもにどういう力が身につき育ったかが曖昧になる危険があります。「活動あって学びなし」です。

 「前向きの子どもたちだから、話し合いできっと良い考えが出てくるはず」「子どもたちに任せれば、学びは必ず深くなるはず」「教師が子どもの『自由』な発言に口を挟むのはよくない」などと思い込んでいないでしょうか。子どもたちの様々な自発的な発言は重視するにしても、教師がそれらを繋いだり意味づけたりゆさぶったりしないと、学びは深まっていきません。教師は待ち受けていて、「ここぞ」というところで口を挟んだり揺さぶったりする必要があります。子どもたちの力を最大限に生かし引き出すために、教師の周到で戦略的なコーディネート力が必要なのです。

 学習課題は子どもと教師で創るとしても、教師の十分な計画が必要です。グループや学級での話し合いや討論も①友達に説明する ②様々な見方を出し合う ③違いを検討する ④共通性・一貫性を見出す ⑤新たな証拠を見つける ⑥新しい見方・考え方を発見する―などそれぞれの話し合いのねらいを明確に意識しないと、漠然としたものに流れます。 振り返りも、子ども任せでは効果を発揮しません。学びをメタ化・文脈化できる振り返り指導が必要です。

課題4:共同研究が形骸化していないか

  先に述べたとおり秋田県の共同研究は、国内的にも世界的にも先進と言えます。しかし、まだ地域や学校によるバラツキがあることも否定できません。実質的な事前研究がないままに研究授業担当者が孤軍奮闘している。誉め合うことに終始している授業検討会。事前研究での「教材研究」「ねらい・目標設定」などに甘さがある。―などです。特に中学校では、まだ「教科の壁」が越えられていないために授業研究の質が上がらないという場合もあるようです。

 専門職として実質的な共同研究を、これまで以上に意識していただきたいと思います。専門職にとって、実質的な共同研究こそが、その専門性を担保する鍵です。また、小中連携研究にも是非取り組んでいただければと思います。教科の壁と同時に学年・校種の壁を越えることで、間違いなく新しい研究が生まれます

最後にー先生方の「多忙化」を解消する重要性

 4つの課題とも関わって先生方の「多忙化」を至急解消していただきたい。探究型授業を実質化するには、豊かな教材研究、周到な授業計画が必要です。そのためには準備の時間・共同研究の時間が必須です。しかし、部活動指導、実務的職務の増加などが先生方の時間を奪っています。教職員の加配、実務の整理・縮小、部活動時間の再検討、「部活動指導員」の設置などをを強く進めていただきたい。行事の取捨選択・精選・縮小も思い切って進めていただきたいと思います。

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して行った授業の助言・指導、講演は1000回を超える。