「『鳥獣戯画』を読む」の教材研究[3]論理よみ-本文と絵の対応&仮説と論証

「『鳥獣戯画』を読む」の教材研究[3]論理よみ-本文と絵の対応&仮説と論証
今回の教材:「『鳥獣戯画』を読む」高畑勲
【国語小6教科書掲載/光村図書出版】
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第二回目では、「『鳥獣戯画』を読む」の文章の構造をとらえました。
第三回目では、「『鳥獣戯画』を読む」の論理の流れをとらえていきます。「仮説」と「論証」の関係のとらえ方がポイントです。

▶︎「『鳥獣戯画』を読む」の教材研究 全四回 [1] [2] [3] [4]

今回は「論理よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「説明的文章の新三読法について」と「説明的文章の論理よみ」をご覧ください。

「『鳥獣戯画』を読む」の論理よみ

 論理よみでは、柱の段落・柱の文に着目しながら、筆者が構築した論理の流れをとらえていきます。「仮説」と「論証」の関係のとらえ方がポイントです。

 「『鳥獣戯画』を読む」の論理よみのポイントは2つです。

  1. 本文が絵とどのように対応しているかを確かめる
    まず、本文と絵そのものとの対応関係を確認していきます。
  2. 柱の段落・柱の文に着目し「仮説」と「論証」の関係を見つけ出す
    「中1」「中2」「中3」「終わり」の柱の段落・柱の文に着目します。その中で、「仮説」を確認しつつその「論証」がどの部分かを見つけ出します。

これらの論理よみが、次の吟味の読み(仮説と論証の妥当性の吟味)で生きてきます。

1.本文が絵とどのように対応しているかを確かめる

 まず、本文と絵そのものとの対応関係を確かめていきます。対応関係がわかること自体、大切な国語の力です。
 本教材で示されている『鳥獣戯画』の絵は、挿絵ではなく絵そのものが論証の一部です。本文と絵の対応関係がわからないと論理の流れをつかむことができません。

 ここでは全ては挙げませんが、例えば次のような箇所を取り上げます

1枚目の絵

おっと、蛙が兎の耳をがぶりとかんだ。⑥この反則技に、たまらず兎は顔をそむけ、ひるんだところを蛙が——。(1段落・⑤⑥文)

蛙はトノサマガエル。⑥まだら模様があって、いく筋か背中が盛り上がっている。(第2段落・⑤⑥文)

 

2枚目の絵

まず、兎を投げ飛ばした蛙の口から線が出ているのに気がついたかな。(第5段落・②文)

 授業では、絵を拡大したものを掲示し、全員で確かめていきます

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Point
「それ」「あの」といった指示語が何を指しているのかを確認するのと同じで、文章が絵のどの部分を述べているかを確認することが大切です。
OECDのPISA(生徒の学習到達度調査)などでも重視されている非連続型テキスト(言語以外のテキスト)の解読の練習にもなります。

 この学習の中で筆者が絵をただ何となく見ているのではなく、部分をクローズアップしていることがわかってきます。それが筆者の解読のすばらしさです。
 このクローズアップと俯瞰的ルーズの組み合わせこそが、絵の解読では大切であることをここから学ばせることができます。

発問例

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ここの文章は、絵のどの部分を指してる?絵に丸をつけてみよう。
❷黒板の絵に◯をつけてくれる人いませんか?

特に文章のどの言葉からここだとわかるの?

2.柱の段落・柱の文に着目し、「仮説」と「論証」の関係を見つけ出す

 次に構造よみで確認した「中1」「中2」「中3」「終わり」の柱の段落・柱の文を見つけます。そして、柱の段落・柱の文とそれ以外の段落・文との関係をつかんでいきます。
 教材研究としてここでは「柱の段落」「柱の文」を全て取り上げますが、授業では特に「仮説」のある段落の「柱の文(仮説)」を確認し、その論証がどのように行われているかを確かめることを中心に指導します。

中1(第13段落)

 「中1」(第13段落)には、1枚目の絵の解読・解説・評価が書かれています。

中1—柱の段落 3段落

 「中1」の柱の段落は、3段落です。
 1段落2段落で絵を解説・解読し、評価しています。それを受け、第3段落で『鳥獣戯画』の紹介をし、「漫画の祖」と言われる理由を説明しています。

中1—柱の文 3段落②文

 3段落の柱の文は②文です。

 『鳥獣戯画』は、「漫画の祖」とも言われている国宝の絵巻物だ。(第3段落・②文)

中2(第47段落)

 「中2」(第47段落)では、2枚目の絵が加わり、1枚目から2枚目に移っていくことの効果を述べています。
 ここでは、「仮説1」「仮説2」「仮説3」と三つの仮説が提示されます(そこが柱の文となります。)。仮説の検証がどのように行われているかを確認していきます。

中2—柱の段落

 「中2」の柱の段落は、4段落5段落6段落7段落の全てであると考えられます。

 

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Point
「中2」は、2枚目の絵が登場するという点では第4〜7段落はひとまとまりといえます。しかし、第4〜7段落はそれぞれの段落がサポートする・しないという関係にはなっておらず、すべての段落が柱となる内容を持っています。
中2—柱の文

 4段落5段落6段落7段落まで順番に柱の文を確認していきます。仮説がある箇所は、仮説がそのまま柱の文となります。

4段落—柱の文④文(仮説1)

『鳥獣戯画』は、漫画だけでなく、アニメの祖でもあるのだ。(第4段落・④文)

 この「仮説1」を論証しているのはどの部分でしょうか。

 直接には、4段落①②③文と⑨文です。

 どうだい。蛙が兎を投げ飛ばしたように動いて見えただろう。アニメの原理と同じだね。(中略)⑨実際に絵巻物を手にして、右から左へと巻きながら見ていけば、取っ組み合っていた蛙が兎を投げ飛ばしたように感じられる。(第4段落・①②③⑨文)

 さらに絵も効果的に使っています。ページの同じ位置に1枚目と2枚目の絵を配置し、読者にページめくらせアニメのような動きを体感させています。

 さらに7段落⑤文でも「アニメの祖」という仮説を論証しています。

一枚の絵だからといって、ある一瞬をとらえているのではなく、次々と時間が流れていることがわかるだろう。(第7段落・⑤文)

第5段落—柱の文⑥⑦文(仮説2)

そう、きっとこれは、「ええい!」とか「ゲロロッ」とか、気合いの声なのではないか。まるで漫画のふき出しと同じようなことを、こんな昔からやっているのだ。(第5段落・⑥⑦文)

 「仮説2」を論証しているのは5段落②③④⑤文です。

まず、兎を投げ飛ばした蛙の口から線が出ているのに気がついたかな。③いったいこれはなんだろう。④けむりかな、それとも息かな。⑤ポーズだけでなく、目と口の描き方で、蛙の絵には、投げ飛ばしたとたんの激しい気合いがこもっていることがわかるね。(第5段落・②③④⑤文)

第6段落—柱の文⑩文(仮説3)

蛙と兎は仲良しで、この相撲も、対立や真剣勝負を描いているのではなく、蛙のずるをふくめ、あくまでも和気あいあいとした遊びだからにちがいない。(第6段落・⑩文)

「仮説3」を論証しているのは6段落④⑤⑥⑦⑧⑨文です。

しかも、投げられたのに目も口も笑っている。⑤それがはっきりとわかる。⑥そういえば、前の絵の、応援していた兎たちも笑っていた。⑦ほんのちょっとした筆さばきだけで、見事にそれを表現している。⑧たいしたものだ。⑨では、なぜ、兎たちは笑っていたのだろうか。(第6段落・④⑤⑥⑦⑧⑨文)

第7段落—柱の文⑤文

 7段落柱の文は⑤文です。これは、上に書いたように4段落④文の仮説の論証になっています。

一枚の絵だからといって、ある一瞬をとらえているのではなく、次々と時間が流れていることがわかるだろう。(第7段落・⑤文)

中3(第8段落)

 「中3」(第8段落)では、「中1」「中2」の漫画・アニメーションの祖であるという解釈に基づいて、絵巻物や絵本などの歴史の中に『鳥獣戯画』を位置付けています。

中3—柱の文 ⑤文

 8段落の柱の文は⑤文です。

十二世紀から今日まで、言葉だけでなく絵の力を使って物語を語るものが、とぎれることなく続いているのは、日本文化の大きな特色なのだ。(第8段落・⑤文)

終わり(第9段落)

 「終わり」(第9段落)では、鳥獣戯画』の素晴らしさを再度確認しつつ、国宝であるだけでなく、人類の宝であると結論的に仮説を述べています。

終わり—柱の文 ⑥文
9段落—柱の文⑥文(仮説4)

『鳥獣戯画』は、だから、国宝であるだけでなく、人類の宝なのだ。(第9段落・⑥文)

「仮説4」を論証しているのは直接には、9段落①②③④⑤文です。

①十二世紀という大昔に、まるで漫画やアニメのような、こんなに楽しく、とびきりモダンな絵巻物が生み出されたとは、なんとすてきでおどろくべきことだろう。②しかも、筆で描かれたひとつひとつの絵が、実に自然でのびのびしている。③描いた人はきっと、何者にもとらわれない、自由な心をもっていたにちがいない。④世界を見渡しても、そのころの絵で、これほど自由闊達なものはどこにも見つかっていない。⑤描かれてから八百五十年、祖先たちは、幾多の変転や火災のたびに救い出し、そのせいで一部が失われたり破れたりしたにせよ、この絵巻物を大切に保存し、私たちに伝えてくれた。(第9段落・①②③④⑤文)

 ただし、「人類の宝」であることの論証は第9段落以外でもされています。絵の素晴らしさを述べている部分がそれに当たります。たとえば2段落①文「のびのびと見事な筆はこび、その気品」、3段落の漫画、第4段落のアニメについての指摘6段落の⑦文「見事に表現している」などです。

発問例

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仮説がどのように論証されているかを考えていこう。
この仮説を読者に納得してもらうための文章はどれだろう?
❷この部分があるから納得できるという部分だよ。

「『鳥獣戯画』を読む」論理よみの板書案

 本文と絵の対応関係を探る授業の板書です。

 次回は吟味よみに入っていきます。

📕注:本文は、小学校国語教科書『国語六』(光村図書出版,2015年)による。

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して授業の助言・指導や講演を行なっている。