物語・小説から「クライマックス」を見つける4つの指標
今回は、作品からクライマックスを見つける4つの指標を、「スイミー」(レオ=レオニ)のクライマックスを例にご紹介します。
この記事は、instagramで好評だったポストの拡大版です。
この記事はこんな方におすすめです
- 作品のクライマックスで悩むことがある
- クライマックスの箇所はなんとなくわかるが、その理由がうまく説明できない
- クライマックスを生かした国語の授業がしたい
そもそもクライマックスとは?
クライマックスとは、作品全体で一番大きな変化がある箇所です。
物語・小説では、作品全体を導入部—展開部—山場—終結部などに分けることができますが(詳しくは「物語・小説の典型構造」を参照)、クライマックスは「山場」に含まれます。
なぜクライマックスに着目する授業が有効なのか?
クライマックスに着目することで、
- 人物相互の関係性の変化
- 人物の内面の葛藤
- 人物のものの見方・考え方の変化
- 導入部の設定の意味
- 終結部が持つ意味
- 伏線の仕掛け
など事件の構造が立体的に見えていきます。主題も仮説的に見えてきます。
クライマックスに着目する授業は、授業の前半に位置付けます。
私は、物語・小説の指導方法として「物語の新三読法 構造よみ—形象よみ—吟味よみ」(詳細はこちら)を提案しています。クライマックスに着目する授業は、最初の段階である「構造よみ」に位置付けています。
物語・小説はクライマックスに向かって、様々な形象や技法が仕掛けられているため、はじめにクライマックスに注目することで、その後の形象よみ(形象や形象相互の関係を読み深める段階)がより有効にスムーズに展開できます。
スイミーのクライマックスはAとBどっち?
小学校教材の「スイミー」(レオ=レオニ)の授業では、クライマックスの候補として大きく二つの考えが出てきます。
さて、クライマックスはAとBどちらでしょうか?その理由もぜひ考えてみてください。
A
それから、とつぜん、スイミーはさけんだ。
「そうだ。みんないっしょにおよぐんだ。海でいちばん大きな魚のふりをして。」
B
みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき、スイミーは言った。
「ぼくが、目になろう。」
それでは「スイミー」のクライマックスを例に、クライマックスを見つける4つの指標を紹介します。
クライマックスを見つける4つの指標
指標1.事件の流れがそこで決定的になる
A スイミーはまぐろに対抗する方法をひらめくが、この時点では、まだ大きな魚になっていない。
B ここで初めて小さな魚たちが1匹の大きな魚みたいに泳げるようになる。そこにスイミーの目が入り大きな魚が完成する。それが、まぐろを追い出すことにつながる。
→ B で事件の流れが決定的になる
「スイミー」の場合は、まぐろを追い出すことにつながるので「破局→解決」といえます。
指標2.伏線がそこに収斂する
B 導入部では、「みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。」とスイミーの黒さが強調される。Bでその黒さを生かし、スイミーは大きな魚の目になる。
→ B で導入部の伏線が回収される。
指標3.読者により強くアピールする書かれ方になっている
A
・「とつぜん」「さけんだ」▶︎緊迫感・緊張感が高い
・「みんないっしょにおよぐんだ。」→「海でいちばん大きな魚のふりをして。」▶︎倒置法的効果
・「そうだ。みんないっしょ〜大きな魚のふりをして。」▶︎描写の(時間の)密度が濃い
B
・「ぼくが、目になろう。」▶︎描写の(時間の)密度が濃い
・「〜とき」▶︎緊迫感・緊張感が高い
・「スイミーは言った。」→「ぼくが、目になろう。」▶︎倒置法的効果
→ A B ともに読者に強くアピールする書かれ方
・時間的な描写の密度が濃い=短い時間に起きたことを描写している(セリフなど)
・緊迫感・緊張感が特に高い(「〜とき」「とつぜん」等)
・技法や表現上の工夫がされている(体言止めや倒置法などの強調する技法等)
というような特徴が含まれることが多々あります。
指標4.作品の主題に深く関わる
A スイミーは深く悩み考えた末に、まぐろに対抗する方法をひらめく。
B まぐろに対抗するため、小さな魚たちが力を合わせて1匹の大きな魚のようになる。その時、スイミーの黒さ(異質性)が魚の目になることで生きる。また、スイミーがリーダーとして成長する。
→ B は特に主題に深く関わる
多くの場合、クライマックスでは指標1〜4が同時に読めます(常に全てが読めるわけではありません)。今回例に出した「スイミー」のクライマックスはBです。
作品によっては、クライマックスで意見が割れることがありますが、その意見の相違を学級全員で検討し探究していく中で新しい発見があります。
常に本文に戻り、本文に証拠を求めながら探究していくことで、作品の伏線やさまざまな仕掛けが鮮やかに見えてきます。
📕注:本文は、小学校国語教科書『こくご二上』(光村図書,2015年)による。教科書の分かち書きを通常の書き方に改めて引用した。