「スイミー」の授業[4]形象よみ-展開部の鍵を読む[板書案]
【国語小2教科書 掲載/光村図書出版・東京書籍ほか】
今回は、「スイミー」の事件が動き出す展開部の鍵を探し、読み深めていきます。
▶︎「スイミー」の授業 全六回 [1] [2] [3] [4] [5] [6]
※今回は「形象よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「物語の新三読法について」と「形象よみの授業」をご覧ください。
「スイミー」展開部の鍵の取り出し
「スイミー」で事件が動き出す展開部の鍵の取り出しを行います。
展開部・山場は、導入部とは鍵の着目の指標が異なります。鍵の取り出しの指標は、以下の2つです。
展開部・山場の「鍵」の取り出しの指標
- 事件の発展(←より主要な指標)
A.人物相互の関係性の発展
B.人物の内的・外的な発展
C.事件の発展とひびきあう情景描写 - 新しい人物像
「スイミー」展開部の鍵の読み深め
「スイミー」の展開部において、ぜひ授業で特に取り上げたい2つの鍵について読み深めていきます。
鍵1.ある日〜にげたのはスイミーだけ。
ある日、おそろしいまぐろが、おなかをすかせて、すごいはやさでミサイルみたいにつっこんできた。
一口で、まぐろは、小さな赤い魚たちを、一ぴきのこらずのみこんだ。
にげたのはスイミーだけ。
上記からはいろいろな読みができますが、今回は、直喩表現「ミサイルみたい」を読んでいきます。(技法への着目は形象よみでは重要な指標となります。)
「ミサイル」によって、まぐろの速さの程度を表現しています。しかし、それだけならば「飛行機のように」「鳥のように」などでもよいはずです。
「ミサイルみたい」を丁寧に読んでいくと次のようなことがみえてきます。
- 「ミサイル」のスピードの速さ→まぐろのすごい速さ
- 「ミサイル」の一度に大量の人命を奪う殺戮兵器としての機能→一口でたくさんの魚を食べるまぐろの恐ろしさ
- 「ミサイル」は誘導装置などにより正確に目標に達する性質→まぐろから逃げることの困難さ
- 「ミサイル」は先が尖った円錐形の形・翼がある→まぐろの形との近似性
つまり、「ミサイルみたい」という直喩によって、速さの程度だけではなく、小さな魚たちにとっては逃げることが難しく、極めて恐ろしい対象であることがわかります。
例)「ある日〜にげたのはスイミーだけ。」を読み深める発問
「ミサイルみたいに」とかかれていることでどんな感じがする?
「ミサイルみたいにつっこんできた。」としていることによって、他にはどんなことが読めるかな?
この後、一人で考える→グループ(またはペア)で話し合う→全体で話し合うという流れがおすすめです。途中でミサイルやまぐろの写真をみせると、より議論を深めさせることができます。
他にはどうかな?
だから普通の爆弾より?
以上のように読み深めていきます。
鍵2.けれど、海には〜いそぎんちゃく。
もう一つの節目は、小さな赤い魚たちがまぐろに襲われ、「こわ」く「さびし」く「かなしかった」スイミーが「だんだん元気をとりもどし」ていく部分です。少し長めの鍵になりますが、スイミーが元気を取りもどすきっかけとなる美しく楽しい海の描写までを鍵として取り上げます。
けれど、海にはすばらしいものがいっぱいあった。おもしろいものを見るたびに、スイミーは、だんだん元気をとりもどした。
にじ色のゼリーのようなくらげ。
水中ブルドーザーみたいないせえび。
見たこともない魚たち。見えない糸でひっぱられている。
ドロップみたいな岩から生えている、こんぶやわかめの林。
うなぎ。かおを見るころには、しっぽをわすれているほど長い。
そして、風にゆれるもも色のやしの木みたいないそぎんちゃく。
まず着目すべきは比喩です。
「にじ色のゼリー」「ブルドーザー」「ドロップ」など比喩をふんだんに使い、美しく楽しい海の様子を表現しています。これらの直喩・隠喩が独自にもつ形象性、またそれらの傾向性・一貫性を読んでいくと以下のような点が見えてきます。
- 「ゼリー」「ドロップ」→色とりどりの子供が好きなお菓子
- 「ブルドーザー」→(いせえびの大きさとすると)オモチャのブルドーザー
- 「見えない糸でひっぱられ」→マリオネットなどの人形劇を連想
- 「風にゆれるもも色のやしの木」→楽園のイメージ
- 「かおを見るころには、しっぽをわすれている」→誇張された冗談・笑い話
いずれも子どもにとって好きなものや楽しいものが比喩に使われています。読者を子どもと想定している作品ですから、その親和性が読めます。そう表現しているのは語り手ですが、これはこの時のスイミーの見方とも重なります。
一文目の「けれど、海には〜元気をとりもどした。」の「すばらしいもの」「おもしろいもの」とは、スイミーの目に映る海のようすであり、これらを見るているうちにだんだんと元気になってきたことが読めます。さらに、元気になってきたのでそういう風にみえた、と考えることもできます。
また、上記の箇所には、体言止めが多用されています。「くらげがいた。」「いせえびが動いていた。」「魚たちが泳いでいた。」などしないことで、まるで絵のように「くらげ」「いせえび」「魚たち」「こんぶやわかめの林」「うなぎ」「いそぎんちゃく」などが、そのまま読者の前に投げ出されます。生き生きとした形象が読者に強く印象づけられ、より描写性を高める絵画的な効果を生んでいます。(もともと「体言止め」の重要な効果の一つにこの「絵画性」があります。)
例)「けれど、海には〜いそぎんちゃく。」を読み深める発問
まずは、言葉の技法部分を取り出し、確認していきます。その後、これらの比喩に共通する要素を探していきます。
この後、一人で考える→グループ(またはペア)で話し合う→全体で話し合うという流れがおすすめです。
いせえびはだいたい25cm〜30cmくらいの大きさだから、そのぐらいの大きさのブルドーザーというと?持ってる人もいるんじゃない?
ドロップやお菓子、ブルドーザーなんか、みんな好き?
以上のように共通性を引き出していきます。
「スイミー」展開部の鍵を読み深める板書案
拙著『物語・小説「読み」の授業のための教材研究 ―「言葉による見方・考え方」を鍛える教材の探究―』では、「スイミー」のさらに詳細な教材研究を掲載しています。ぜひご覧ください!
掲載教材:「スイミー」「お手紙」「一つの花」「大造じさんとガン」「海の命」「少年の日の思い出」「字のない葉書」「故郷」
次回は、山場の鍵を読んでいきます!さらに主題へと迫っていきます。
📕注:本文は、小学校国語教科書『こくご二上』(光村図書,2015年)による。教科書の分かち書きを通常の書き方に改めて引用した。