「読む力」を育てる!説明文・論説文の指導方法-説明的文章の新三読法[1]はじめに
そんな悩みにお答えしながら、子どもたちに説明的文章を「読む力」を確実に育てるための指導方法「説明的文章の新三読法:構造よみ―論理よみ―吟味よみ」を紹介します。
「説明的文章の新三読法」はすべての説明文・論説文の指導方法として応用可能です。ぜひ授業づくりにお役立てください。
「説明的文章の新三読法」とは何か?
全体を俯瞰する→詳しくとらえる→吟味する、という指導法
説明的文章の新三読法では、「構造よみ―論理よみ―吟味よみ」という三つの段階で作品を深く読み込んでいきます。
文章の大きな枠組み(構成・構造)を俯瞰的にとらえる構造の読み。
時間配分:30%程度
柱の段落・文に着目しながら、論理のながれをとらえる論理の読み。
時間配分:40%程度
構造よみ・論理よみを生かしつつ、その文章の工夫・よい点、またわかりにくいところ・不十分な点を発見する吟味の読み。
時間配分:30%程度
「説明的文章の新三読法:構造よみ―論理よみ―吟味よみ」は、阿部が代表をつとめる国語科教育の研究会「読み」の授業研究会で行われている指導方法です。このサイトではそれを「新三読法」というかたちで提案します。
「説明的文章の新三読法」に入る前に行う2つのこと
1.「表層のよみ」(出会いよみ)
まず「表層のよみ」(出会いよみ)を行います。表層のよみとは、作品の音読・語句確認・だいたいの内容の把握を行っていく過程です。
この表層のよみを行わないで授業を進めていくと、深層のよみである「構造よみ―論理よみ―吟味よみ」で話し合いや討論に参加できない子どもが出てきてしまいます。
表層のよみ 6つのポイント
- 動機づけ
題名や題材、作者への注目、内容の予告などを提示し、子どもの学習意欲を喚起します。「面白そう!」「読んでみたい。」と子どもが感じるようにします。 - 先生の朗読
文学作品だけでなく、説明的文章でも読み聞かせは大切です。 - 語句や漢字の確認
重要な語句・漢字にしぼって確認します。数を多くし過ぎると子どもの興味をそいでしまうことがあります。重要語句・漢字以外は、「深層のよみ」の段階でその都度押さえていけばいいのです。 - 子どもの音読
楽しみながらできるだけ多く音読を行います。子どもたちが暗唱するくらいまで音読をさせることができれば、その後の「構造よみ-論理よみ-吟味よみ」がより豊かに展開できます。初読の感想を聞いてもよいでしょう。 - 場面やだいたいの内容の把握
だいたいの作品の流れも押さえておきます。 - 段落番号・文番号を記入するなどの事前作業
説明的文章を深く読む時には、段落番号・文番号を正確に記入しておくことが必要です。
2.「文種」を確認する
次に「文種」を確認していきます。
説明的文章は、まず大きく二つの型に分けることができます。「説明文(informative型)」と「論説文(persuasive型)」です。
「説明文」と「論説文」のどちらに分類されるかによって、着目ポイントも異なります。そのポイントを意識することが、子どもたちの読みの主体性に大きくかかわります。
「説明文(informative型)」
「説明文(informative型)」とは...
社会で既に解明されていること、定説となっていることを、それをまだ知らない読者に知らせる文章。
読者が理解しやすいように具体例をあげたり、説明の順序を工夫していることが多い。
「説明文(informative型)の例:報告文・観察文・記録文・マニュアル・新聞記事など
説明文の場合、定説となっていることがかかれているため、かかれている事柄そのものは基本的には疑う必要はありません(フェイクニュースなどは別ですが)。
文章を吟味する際には、構造、論理・具体例など説明の仕方の工夫や特長、不十分さやわかりにくさなど評価します。
説明文の教材例
- 「たんぽぽのちえ」(うえむらとしお)光村図書出版
- 「アップとルーズで伝える」(中谷日出)光村図書出版
- 「こまを楽しむ」(安藤正樹)光村図書出版
- 「すがたをかえる大豆」(国分牧衛)光村図書出版
- 「ダイコンは大きな根?」(稲垣栄洋)光村図書出版
「論説文(persuasive型)」
「論説文(persuasive型)」とは...
社会的に見解が一致していない事柄、まだ定説がない事柄に対して筆者の意見・主張・仮説を述べている文章(定説への批判を含む。)。
読者に自らの意見・主張・仮説を納得してもらうために、様々な前提や具体例を挙げ説得的に書かれている。仮説と論証から成り立っているとも言える。
論説文(persuasive型)の例:意見文・評論・論文・社説・コラムなど
論説文は、社会的に見解が一致していない事柄、まだ定説がない事柄について書いています。その意味で筆者の意見・主張・仮説に耳を傾けつつも、まずは疑ってみることが必要となります。
文章を吟味する際には、まず筆者の意見・主張・仮説に納得できるかできないかを考えます。そのために論証の妥当性を評価・批判します。
論説文の教材例
- 「世界にほこる和紙」(増田勝彦)光村図書出版
- 「時計の時間と心の時間」(一川誠)光村図書出版
- 「イースター島になぜ森林がないのか」東京書籍
- 「『鳥獣戯画』を読む(高畑勲)光村図書出版
- 「モアイは語る-地球の未来」(安田喜憲)光村図書出版
文種を指導するためには、子どもが説明文と論説文の両方を教材として比べられることが必要です。
そのため、文種指導は小学校上学年からになります。もちろん中学校、高校では1年生から指導します。
「説明文」と「論説文」の違い
「説明文」と「論説文」の違いをまとめると次のようになります。
これまで日本の国語の授業では、この二つの文種の区別を重視してきませんでした。二つの文種を見分けられないことが、子どもたちの読解力を弱くしています。
2000年に行われたOECD(経済開発協力機構)のPISA(生徒の学習到達度調査)の「読解力」問題で、日本の子どもたちはこの文種を問われる設問ではOECD平均を大きく下回りました。
論説文を、説明文と勘違いしてなんの疑いもなく受け入れてしまったとしたら大きな問題です。子どもたちが主体的に説明的文章を読むためには、この二つが見分けられることが重要です。
拙著『文章吟味力を鍛える—教科書・メディア・総合の吟味』では、評価する力と批判する力の双方を含む「吟味力」の理論や実践例を解説しています。