「『鳥獣戯画』を読む」の教材研究[2]構造よみ-どこに着目して「中」を分けるか

「『鳥獣戯画』を読む」の教材研究[2]構造よみ-どこに着目して「中」を分けるか
今回の教材:「『鳥獣戯画』を読む」高畑勲
【国語小6教科書掲載/光村図書出版】
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第一回目では、「『鳥獣戯画』を読む」の授業のポイント・指導計画案・文章の種類について説明しました。
第二回目では、「『鳥獣戯画』を読む」の文章の構造をとらえていきます。

▶︎「『鳥獣戯画』を読む」の教材研究 全四回 [1] [2] [3] [4]

今回は「構造よみ」段階にあたります。未読の方は、先に「説明的文章の新三読法について」と「説明的文章の構造よみ」をご覧ください。

「『鳥獣戯画』を読む」の構造よみ

 文章の構造を読んでいきます。説明的文章の典型的な形は「初め・中・終わり」の三部構造です。

1.「初め」はある?ない?

 「『鳥獣戯画』を読む」で「初め」はどこでしょうか。冒頭は次の通りです。

 はっけよい、のこった。秋草の咲き乱れる野で、蛙と兎が相撲をとっている。蛙が外掛け、すかさず兎は足をからめて返し技。その名はなんと、かわず掛け。(第1段落・①〜④文)

 ここで既に『鳥獣戯画』についての筆者独自の具体的な絵の解読が始まっています。
 さらに第2段落では、「見事な筆運び、その気品」「ちゃんと動物を観察したうえで(中略)ほぼ正確にしっかりと描いている」など筆者の評価がしっかり書かれています。すでに「中」に入っていると考えるのが自然です。

 墨一色、抑揚のある線と濃淡だけ、のびのびと見事な筆運び、その気品。みんな生き生きと躍動していて、まるで人間みたいに遊んでいる。(第2段落・①〜②文)

ただの空想ではなく、ちゃんと動物を観察したうえで、骨格も、手足も、毛並みもほぼ正確にしっかりと描いている。(第2段落・⑦〜⑧文)

 第1段落・第2段落には、「初め」の役割である「問題提示」「話題提示」などにあたる要素は見当たりません。また、「導入」とみるには、本格的な解読・評価が述べられていて不自然です。

 「『鳥獣戯画』を読む」には「初め」にあたる部分がなく、「中」「終わり」の二部構造と考えられます。

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Point
あえて言えば「『鳥獣戯画』を読む」という題名が「問題提示」に当たるともいえます。

発問例

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❶説明的文章の「初め」の役割はなんだっけ?
❷この文章に「初め」に当たる部分はあるかな?

2「終わり」はどこか?

 次に「終わり」はどの段落かを考えます。自ずと「中」の段落も浮かび上がってきます。

終わり9段落(問題提示に対する結論)

 9段落では、この文章の結論が示されています。
 第9段落①文では、「中」を受け、「終わり」では12世紀も前に作られたものにも関わらず、現代的な要素を先取りしていたことを指摘しています。

 十二世紀という大昔に、まるで漫画やアニメのような、こんなに楽しく、とびきりモダンな絵巻物が生み出されたとは、なんとすてきでおどろくべきことだろう。(第9段落・①文)

 その上で、『鳥獣戯画』の素晴らしさを再度確認しつつ、国宝であるだけでなく、人類の宝であると結論的に仮説を述べています。

 『鳥獣戯画』は、だから、国宝であるだけでなく、人類の宝なのだ。(第9段落・⑥文)

 それに対して、8段落では『鳥獣戯画』を絵巻物や絵本などの歴史の中に位置付けています。ここも『鳥獣戯画』の解説といえるので「中」と読むのが自然です。

発問例

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❶この文章の「終わり」はどこ?
9段落という人が多いけど、理由は?
それに対して第8段落はどうかな?

3.絵との関係に着目して「中」を分ける

 「中」の第1段落〜第8段落内容ごとにいくつかのまとまりに分けていきます。

 「『鳥獣戯画』を読む」の構造のよみはその観点によっていくつか考えられますが、ここでは絵が重要な役割を果たしているため、絵との関係性に着目し「中」を3つに分けます

 「中」は、1枚目の絵→1枚目の絵と2枚目の絵の関係→歴史的位置付け—という流れで論が展開されています。

 とすると、一枚目の絵について書かれている第13段落が「中1」、1枚目と2枚目の絵の関係について書かれている47段落が「中2」です。「中2」では2枚目の絵そのものの解読も行われます。そして『鳥獣戯画』の歴史的位置付けが述べられてる8段落が「中3」です。

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Point
授業では「『中』をどういう基準で分けるか」「どこに着目して分けるか」を、子どもたちに明確に示した方がよいと思います。
中113段落

 中1(第13段落)には、1枚目の絵の解読・解説・評価が書かれています。
 第12段落で解読・評価が示され、第3段落で『鳥獣戯画』は国宝であり、「漫画の祖」という解説が述べられます。まだここでは仮説は登場しません。

 はっけよい、のこった。秋草の咲き乱れる野で、蛙と兎が相撲をとっている。蛙が外掛け、すかさず兎は足をからめて返し技。その名はなんと、かわず掛け。(第1段落・①〜④文)

 墨一色、抑揚のある線と濃淡だけ、のびのびと見事な筆運び、その気品。みんな生き生きと躍動していて、まるで人間みたいに遊んでいる。(第2段落・①〜②文)

 この絵は、『鳥獣人物戯画』甲巻、通称『鳥獣戯画』の一場面。『鳥獣戯画』は、「漫画の祖」とも言われる国宝の絵巻物だ。(第3段落・①〜②文)

中247段落

 中2(第47段落)では、2枚目の絵が加わり、1枚目から2枚目に移っていくことの効果を述べています。
 第4段落では、漫画に加えて、アニメーションとの関わりが示されます。そして『鳥獣戯画』は「アニメの祖」と述べます。これが一つ目の仮説です。

 どうだい。蛙が兎を投げ飛ばしたように動いて見えただろう。アニメの原理と同じだね。『鳥獣戯画』は、漫画だけでなく、アニメの祖でもあるのだ。(第4段落・①〜④文)

 第5段落・第6段落では、2枚目の絵の解読をしています。
 第5段落で「蛙の口から」出ている線は「気合いの声」ではないかと二つ目の仮説が示されます。読み手によっては「息」と解釈する可能性もあります。しかし、筆者は「気合いの声」と解釈しています。独自の解釈つまり仮説です。

 そう、きっとこれは、「ええい!」とか「ゲロロッ」とか、気合いの声なのではないか。まるで漫画のふき出しと同じようなことを、こんな昔からやっているのだ。(第5段落・⑥⑦文)

 第6段落では、蛙と兎は「仲良し」で「和気あいあいとした遊び」の世界であると、この絵の世界を解釈しています。
 第一回でも述べましたが、読み手によっては(たとえば美術史家)蛙と兎は敵対関係にあると解釈しています。「仲良し」「和気あいあい」は筆者の三つ目の仮説といえます。

 蛙と兎は仲良しで、この相撲も、対立や真剣勝負を描いているのではなく、蛙のずるをふくめ、あくまでも和気あいあいとした遊びだからにちがいない。(第6段落・⑩文)

 第7段落では、絵巻物では1枚目の絵が右に2枚目の絵が左にあり、1枚目と2枚目の絵の全体を見わたします。そして、右から左へと時間が流れていくことを示します

 絵巻の絵は、くり広げるにつれて、右から左へと時間が流れていく。(第7段落・①文)

中38段落

「中3」(第8段落)では、「中1」「中2」の漫画・アニメーションの祖であるという解釈に基づいて、絵巻物や絵本などの歴史の中に『鳥獣戯画』を位置付けています。

 この絵巻がつくられたのは、今から八百五十年ほど前、平安時代の終わり、平家が天下を取ろうとしていたころだ。(第8段落①文)

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Point
中1」「中2」「中3」の関係は、「中1」を受けて「中2」を展開しているので「展開型」と言えます。中3は、中1・中2を受けた歴史的な解説です。

発問例

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❶「中」をいくつかに分けてみよう。
❷いろんな分け方があるかもしれないけど、今回は絵と本文との関係を重視しよう。
この文章では『鳥獣戯画』の中から2枚の絵が示されているね。では、それを基準に分けてみよう。
❸まず第7段落は歴史だから独立しそうだね。とすると第1~6段落はどう分けられるだろう?

「『鳥獣戯画』を読む」構造よみの板書案

 例えばこんな板書が考えられます。

 次回は論理よみに入っていきます。

📕注:本文は、小学校国語教科書『国語六』(光村図書出版,2015年)による。

執筆者

国語科教育研究者
国語の教師・国語科教育研究者として、40年にわたり国語授業の研究・実践を行う。全国各地の小・中・高校や教育委員会等を訪問して授業の助言・指導や講演を行なっている。