「『鳥獣戯画』を読む」の教材研究[1]授業の4つのポイントと指導計画案
【国語小6教科書掲載/光村図書出版】
「『鳥獣戯画』を読む」(高畑勲)とは?
「『鳥獣戯画』を読む」はアニメーション映画監督・高畑勲が国宝である『鳥獣戯画』を斬新な切り口で解読しています。
「鳥獣戯画」のいくつかの場面を示しながら、『鳥獣戯画』は漫画の祖だけではなく、アニメの祖でもあるという持論を展開しています。
筆者の高畑勲(1935年〜2018年)は、スタジオジブリのアニメ映画『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』『かぐや姫の物語』などの監督・脚本を手掛けました。
「『鳥獣戯画』を読む」以前には、絵画を読み解くという教材は小学校教材にはありませんでした。
教科書に掲載された、絵画を読み解く初めての説明的文章がこの「『鳥獣戯画』を読む」です。
「『鳥獣戯画』を読む」の授業ポイント
ポイント1:筆者の説得の工夫を発見し、読み解く
はっけよい、のこった。秋草の咲き乱れる野で、蛙と兎が相撲をとっている。蛙が外掛け、すかさず兎は足をからめて返し技。その名はなんと、かわず掛け。(第1段落)
もう少しくわしく絵を見てみよう。まず、兎を投げ飛ばした蛙の口から線が出ているのに気がついたかな。いったいこれはなんだろう。けむりかな、それとも息かな。(第5段落)
「『鳥獣戯画』を読む」では、筆者独自の仮説を読者に納得してもらうための工夫が数多く散りばめられています。
小学校6年生は文章の構造や論理の読み方については学習できているので「構造よみ」「論理よみ」は簡単に終わらせ、説得のための工夫に着目させ、読み深めていく「吟味よみ」に特に重点を置きます。
第1段落・第2段落・第5段落は、特に説得のための表現の工夫がふんだんに使われています。子どもたちにそのロジック・レトリックを工夫を発見させ、その工夫にはどんな効果があるのかを考えさせることで高い国語力を身につけさせることができます。
説得の工夫を読み解くことで国語の力がつく!
ポイント2:「『鳥獣戯画』を読む」は論説文
説明的文章は、まず大きく二つの型に分けることができます。「説明文(informative型)」と「論説文(persuasive型)」です。「説明文」と「論説文」のどちらに分類されるかによって、着目ポイントも異なります。(文種の違いについて詳しくはこちら)
「『鳥獣戯画』を読む」は、筆者の考え(仮説)がある「論説文」(persuasive型)です。
論説文では、どのように仮説を論証しているのかを読むことがポイントとなります。そして最終的には自分が仮説に納得できるかできないか判断します。
「論説文(persuasive型)」とは...
社会的に見解が一致していない事柄、まだ定説がない事柄に対して筆者の意見・主張・仮説を述べている文章(定説への批判を含む。)。
読者に自らの意見・主張・仮説を納得してもらうために、様々な前提や具体例を挙げ説得的に書かれている。仮説と論証から成り立っているとも言える。
論説文(persuasive型)の例:意見文・評論・論文・社説・コラムなど
授業では、表層のよみ(教師の範読、子どもの音読、語句・漢字確認など)を行なった後に、文章のジャンルの確認と文章の仮説の位置を確認していきます。
文種によって読みの方向が大きく変わる!
発問例
ポイント3:筆者の仮説は4箇所
「『鳥獣戯画』を読む」の仮説は大きく4つあります。
『鳥獣戯画』は、漫画だけでなく、アニメの祖でもあるのだ。(第4段落・④文)
仮説である理由:鳥獣戯画が漫画のルーツであることはこれまでも言われてきた。しかし、アニメーションのルーツという見方は筆者独自のものである。
そう、きっとこれは、「ええい!」とか「ゲロロッ」とか、気合いの声なのではないか。まるで漫画のふき出しと同じようなことを、こんな昔からやっているのだ。(第5段落・⑥⑦文)
仮説である理由:蛙の口からでている線が何であるかという定説はまだない。たとえば息という見方もできないわけではない。そういう中で筆者は「気合いの声」「漫画のふき出しと同じ」と述べているので、筆者の考えといえる。
蛙と兎は仲良しで、この相撲も、対立や真剣勝負を描いているのではなく、蛙のずるをふくめ、あくまでも和気あいあいとした遊びだからにちがいない。(第6段落・⑩文)
仮説である理由:蛙と兎たちは、相互に敵対的な関係であるという解釈もある。そういう中で、「仲良し」「和気あいあい」「遊び」という見方は筆者独自といえる。
仮説3については、蛙と兎の関係についてさまざまな見解があることを知らなければ気づきにくいので、先生が伝えてもいいと思います。
『鳥獣戯画』は、だから、国宝であるだけではなく、人類の宝なのだ。(第9段落・⑥文)
仮説である理由:『鳥獣戯画』が国宝であることは事実だが、人類の宝というのは筆者独自の考えである。
論説文ではまず仮説はどこかを探しだす!
発問例
筆者独自の見方・主張が書かれている箇所を探してみましょう。
ポイント4:絵は挿絵ではなく論証の一部
本教材で示されている『鳥獣戯画』の絵は、筆者の仮説の論証に不可のものであり、本文の重要な一部です。
絵と文章の対応関係、絵の提示の仕方、絵のどこにフォーカスしているかなど—を丁寧に読むことが大切です。
絵の使い方・着目の仕方が説得力を高めている!
「『鳥獣戯画』を読む」の指導計画案
例えばこんな指導計画案が考えられます。
指導過程 | 学習内容 | |
---|---|---|
1時間目 | 表層のよみ | 教師の範読、子どもの音読、語句・漢字確認、感想など |
2時間目 | ジャンル確認 | 説明的文章のジャンルの確認/仮説の位置の確認 |
3時間目 4時間目 | 構造よみ | 初め・中・終わりに分ける→初めがないことを確認 中を3つに分ける |
5時間目 6時間目 | 論理よみ | (仮説の)論証の核を見つけ出す 中1〜3の柱を見つけ出す |
7時間目 8時間目 9時間目 10時間目 | 吟味よみ | 筆者の説得の工夫・特長(ロジック/レトリック) とタイトル等を読み解く 筆者の仮説に納得できるか、できないかを判断する |
11時間目 | 単元の振り返り | 文章についての短い批評文を書く 『鳥獣戯画』の他の場面の解読文を書く 等 |
次回は、構造よみに入っていきます。
📕注:本文は、小学校国語教科書『国語六』(光村図書出版,2015年)による。