小学校国語の投げ込み教材に!童謡「アイスクリームのうた」の教材研究
「アイスクリームのうた」という童謡をご存じでしょうか。この童謡の歌詞、一見単純に思えるのですが、丁寧に読み深めていくと見事なレトリックがたくさん散りばめられています。
今回は、投げ込み教材として使いやすい「アイスクリームのうた」の教材研究を紹介します。
童謡を「詩」として国語の授業で読み直すこと自体が子どもたちにとって新鮮な驚きがあります。
授業びらきにもおすすめです!
「アイスクリームのうた」とは?
「アイスクリームのうた」は、作詞 さとうよしみ、作曲 服部公一による童謡です。1960年(昭和35年)に大阪の朝日放送ラジオ『ABC子どもの歌』のために制作されました。その後、NHK『みんなのうた』で取り上げられ、人気曲となります。
次が「アイスクリームのうた」の歌詞全文です。今回はこの作品を一つの「詩」として読んでいきます。
アイスクリームのうた
作詞 さとうよしみ作曲 服部公一おとぎばなしの おうじでも
むかしはとても たべられない
アイスクリーム アイスクリーム
ぼくは おうじではないけれど
アイスクリームを めしあがる
スプーンですくって
ピチャ チャッ チャッ
したにのせると トロン トロ
のどをおんがくたいが とおります
プカプカドンドン つめたいね
ルラルーラルーラ あまいね
チータカ タッタッタッ おいしいね
アイスクリームは たのしいね
おとぎばなしの おうじょでも
むかしはとても たべられない
アイスクリーム アイスクリーム
わたしは おうじょではないけれど
アイスクリームを めしあがる
スプーンですくって
ピチャ チャッ チャッ
したにのせると トロン トロ
のどをおんがくたいが とおります
プカプカドンドン つめたいね
ルラルーラルーラ あまいね
チータカ タッタッタッ おいしいね
アイスクリームは たのしいね
おとぎばなしの おうじでも
むかしはとても たべられない
アイスクリーム
アイスクリーム
「うたまっぷ」より引用
一連目を3つの部分に分けてみよう《構造よみ》
まず「アイスクリームのうた」一連目の構造に着目します。一連は、それぞれ三つの部分に分けることができます。
おとぎばなしの おうじでも
むかしはとても たべられない
アイスクリーム アイスクリーム
「おとぎばなしのおうじ」を引き合いに出し、アイスクリームの特別感を説明します。
ぼくは おうじではないけれど
アイスクリームを めしあがる
スプーンですくって
ピチャ チャッ チャッ
したにのせると トロン トロ
ここで「ぼく」が登場し、アイスクリームを食べ始めます。だんだんと描写的になっていきます。
のどをおんがくたいが とおります
プカプカドンドン つめたいね
ルラルーラルーラ あまいね
チータカ タッタッタッ おいしいね
アイスクリームは たのしいね
アイスクリームを「おんがくたい」に例え、さまざまなオノマトペを用いながら、アイスの楽しさを表現します。二部より三部のほうが、さらに描写の密度が濃くなります。
レトリックに着目し、詩の工夫を探しだそう《形象よみ》
次にレトリック(技法)に着目しながら、一部から順番に詩のさまざまな工夫を読んでいきます。
一部-①「おとぎばなし」×「おうじ」でアイスの特別感を高める
身分が特に高く、飛び抜けた財力をもっていた王子でさえも、昔はアイスクリームを食べることができなかったと詩が始まります。
この王子が「おとぎばなしのおうじ」であることに着目します。
「おとぎばなし」は「昔話」などよりも空想性・フィクション要素が強くなります。
さらに読者(聞き手)のこどもたちにとって「おとぎばなしの おうじ」(二連では「おうじょ」)は、身近なヒーロー・主人公的存在です。
その王子ですら食べられないとすることで、アイスクリームの特別感・希少性を高めているのです。
一部-②倒置的効果と反復でアイスクリームの存在を出す
「おとぎばなしの おうじでも むかしはとても たべられない」と「アイスクリーム アイスクリーム」は倒置的関係になっています。
倒置によって読者は「おとぎばなしのおうじでも食べられないものって何?」と問いを持ちます。その問いに「アイスクリーム アイスクリーム」と反復して答えるかたちです。アイスクリームの存在を強調しています。
二部-①「ぼくは〜めしあがる」敬語の「間違い」が生む3つの効果
ここで語り手「ぼく」が登場します。
「ぼくは」アイスクリームを「めしあがる」と、自分自身に尊敬語を使っています。もちろん文法的には誤りです。
しかし、そのことが次のような効果を生んでいます。
- 文法的には誤りだが「ぼく」があえて使っていると読むと、子どもらしいユーモア、茶目っ気が感じられる。
- 王子様に使えば自然な「めしあがる」という言葉を「ぼく」が使うことで、王子様以上のことができているということを全面に出している。
- アイスクリームを食べられることを自慢する気持ちの大きさや優越感を表現。
二部-②口の中のオノマトペ
この詩の特徴の一つが、豊かなオノマトペです。
「ピチャ チャッ チャッ」は、アイスを口に入れたあと、わざと音を立ててアイスを味わっているのでしょうか。「ピチャ チャッ チャッ」という弾むような音のリズムが、水遊びをしているような楽しさ・喜びを連想させます。こちらは擬音語です。
「トロン トロ」も「トロン トロン」よりリズムが弾み、歯切れがよくなっています。アイスクリームが舌の上で溶けていく瞬間を音で表現しています。こちらは擬態語です。
二部-③「したにのせると」焦点化された具体的描写
「したにのせると」は、「食べると」「口にいれると」よりも具体的な描写になっています。対象にぐっとクローズアップすることで、舌に乗せて味わっているその瞬間がイメージされ、より読者の実感に迫ります。
三部-①アイスクリームを音楽隊で表現
アイスクリームを「おんがくたい」に例え(隠喩)、アイスクリームを食べることは音楽隊の演奏に匹敵するほど楽しく心躍る体験であることを伝えます。
また、音楽隊は二、三人でもなく、大勢による音楽演奏です。これは、アイスクリームの味わいが単調なものではなく、まるでオーケストラのような多奏性、重層性をもっていることを示しているとも読めます。「つめたいね」「あまいね」「おいしいね」「たのしいね」とも呼応しています。
三部-②音楽隊のオノマトペ
「プカプカドンドン」の「プカプカ」は、ラッパなど管楽器の音を表す擬音語、「ドンドン」は大太鼓です。「プカプカドンドン」には、「つめたいね」と続きます。舌に響くようなおいしさを伴った冷たさの刺激とも読めるかもしれません。
次の「ルラルーラルーラ」はクラリネットなどの高音の管楽器でしょうか。ラ行の音の軽やかさからは、アイスクリームの甘さに喜びを感じている「ぼく」が読めます。
最後の「チータカ タッタッタッ」はスネアドラムでしょうか。受賞者の発表などでも用いられるドラムロールはこのスネアドラムで演奏されます。まさに盛り上がりが最高潮に達したような演出です。
三部-③「アイスクリームは たのしいね」を読む
アイスクリームは食べ物ですから、本来「楽しい」という表現は使いません。
「たのしいね」とあえて表現しているということは、アイスクリームを食べる行為そのものが美味しさを超えて楽しさを作り出すことを示しています。
読みをまとめると…
「アイスクリームのうた」では、さまざまな工夫や技法を用いて、アイスクリームの楽しさを表現しています。
日常的な存在であるアイスクリームを普段は気がつかない新しい視点から語り直し、そのすばらしさを読者に伝えています。
さまざまな角度から読んでみよう《吟味よみ》
最後にこれまでの読みを生かして、「アイスクリームのうた」をさまざまな角度から読んでいきます。
「アイスクリーム」以外の食べ物で詩を書き直す
詩の題材を「アイスクリーム」以外の食べ物で書き直す取り組みが面白いと思います。例えば子どもたちが大好きな食べ物—カレーライス、ラーメンやエビフライなどの揚げ物、ピザなど。
どこまで詩を変えていくかは、学年によって変わってくるかと思います。それにともなってオノマトペを変えてみるのも面白いかもしれません。
[補足]歌が生まれた時代のアイス
この歌が生まれた1960年当時、日本でアイスクリームはどんな存在だったのでしょうか。
同社は昭和31(1956)年に1本10円の「アイスクリームバー」を発売し、大量生産によるアイスクリームの大衆化の道を開きます。昭和35(1960)年には当たりくじ付き「ホームランバー」を発売し、当時の子供たちの間で爆発的な人気となりました。
農畜産業振興機構Webサイト「日本アイスクリーム産業の歴史」より
1960年はちょうどアイスクリームの大衆化が進みはじめていた時期です。少し前までは、手が届きにくかったアイスクリームが安価(10円は現在の価値で60円程度)になり、気軽に食べられるようになった時代に生まれた歌なのです。
📖「アイスクリームのうた」の歌詞はすべてWebサイト『アイスクリームのうた 童謡 歌詞情報 』(うたまっぷ,2022/03/18)https://www.utamap.com/showkasi.php?surl=58490 より引用。
📖参考文献:服部公一『童謡はどこへ消えた 子どもたちの音楽手帖』(平凡社新書,2015年)