物語・小説を「読む力」を育てる指導方法-新三読法[4]吟味よみの授業
今回は、物語の新三読法の三段階「吟味よみ」です。構造よみ・形象よみを生かしながら、子どもたちが主体的に作品を吟味・評価していきます。
▶︎物語の新三読法:[1]はじめに [2]構造よみ [3]形象よみ [4]吟味よみ
吟味よみ=主体的に作品を吟味・評価する
物語の新三読法の三段回目・吟味よみの段階では、新しい視点から作品を再読していきます。
ここで重要なことは、ただの感想ではなく、構造よみ・形象よみを生かしながら作品を主体的に吟味し、評価していくということです。
作品の吟味→吟味文を書く
「吟味よみ」には次の二つの過程が含まれます。
これまでの構造よみ・形象よみを生かしながら作品を再読し、作品を主体的に吟味・評価していく過程です。
上記を生かし、一人一人が「吟味文」を書いていきます。その上で吟味文を子ども相互が交流し、さらに吟味・評価を豊かにしていきます。読むことから書くことへの発展です。
作品を多面的に吟味・評価する
私たちは、物語・小説を読みながら「へえ、おもしろい」「わかる」「感動した」などと思います。一方で「つまらない」「それはないだろう」「それは違う!」などと思うこともあります。作品に共感したり違和感をもったり、納得したり反発しながら作品を読んでいます。
吟味よみの過程では、作品に対する肯定的評価をもちろん大切にしますが、「違和感をもつ」「批判する」など否定的評価も大切にしていきます。ただし印象で終わらせずに、「特にどこが好きか」「どこに共感したのか」「なぜ違和感をもったのか」などを深く探っていきます。根拠を作品の一語一文の中に具体的に求めさせることが重要です。
1.作品への立場を明らかにする
まず、作品について「面白い」「面白くない」「好き」「嫌い」など自分の立場を明らかにします。そのときの切り口には次のようなものがあります。
作品への立場を明らかにする六つの切り口
- 作品が面白いか/面白くないか
- 作品や登場人物に共感できるか/共感できないか
- 作品が好きか/嫌いか
- 作品の主題などに納得できるか/納得できないか
- 作品を評価できるか/できないか
- 自分や社会・世界にとって作品がどういう意味をもっているか
小学校高学年くらいになると、「面白い」「共感できた」とともに少しずつ「面白くなかった」「共感できない」「好きになれない」などの感想が出てきます。それを吟味よみの深め方1~5を生かしながら深めていきます。
中学校・高校でももちろん肯定的な評価とともに否定的な評価も大切にしていきます。
2.なぜそう考えたのかを明らかにする
次に自分の立場を明らかにした上で、次のような方法でそれを深めていきます。
吟味よみの深め方
- 語り手に注目して吟味・評価する
- 語り手はどんな姿勢で物語を語っていたか(語り手と登場人物の関係)
- 語り手の設定の仕方に特徴はないか
- 語り手を替えてみるとどんなことがみえてくるか
- 人物設定や事件展開などに注目して吟味・評価する
- 人物設定にどういう工夫がされているか(他の人物設定に替えて比べる)
- 事件の発展にどういう工夫がされているか(他の事件展開に替えて比べる)
- 人物の発展にどういう特徴があるか
- 構造や題名に注目して吟味・評価する
- 構造にどういう工夫があるか(同じストーリーで構造を替えて比べる)
- 題名にはどういう工夫があるか(題名を替えて比べる)
- 海外作品の複数翻訳および改訂版・異本などの比較により吟味・評価する
- 作品を総括的に吟味・評価する(主題、思想、ものの見方・考え方など)
- 作品の主題にはどういう特徴があるか
- 作品の裏にはどんなものの見方・考え方が隠れているか
これらを、学年が上がるごとに少しずつ生かせるようにしていきます。
例)作品ごとの吟味よみの深め方
1.語り手に注目—「ごんぎつね」の例
「ごんぎつね」の語り手へ注目してみます。「これは、わたしが小さいときに、村の茂平というおじいさんから聞いたお話です。」という一文から「ごんぎつね」は始まります。この一文は物語の内実とほぼ関係ありません。「村の茂平というおじいさんから聞いたお話」ということは、茂平も誰か別の人から聞いたお話である可能性が高いはずです。とすると、この話は多くの人たちにより語り継がれている話ということです。そこには多くの人々の共感がそこにあった可能性が高いことがわかります。
2.人物設定や事件展開などに注目—「大造じいさんとガン」の例
この作品には、導入部がある版とない版とがあります。光村図書出版は語り手である「わたし」が大造じいさんを紹介する導入部があるのですが、東京書籍にはその導入部自体がありません。その差異を吟味することも吟味としては面白いと思います。
光村図書出版の「じいさんは、七十二さいだというのに、こしひとつ曲がっていない、元気な老かりうどでした。」「なかなか話し上手の人でした。」「血管のふくれたがんじょうな手を、いろりのたき火にかざしながら、それからそれと、愉快なかりの話をしてくれました。」などの人物紹介があります。それがある場合とない場合では何が違うのかを吟味することができます。
3.構造や題名に注目—「わらぐつの中の神様」「走れメロス」の例
「わらぐつの中の神様」は、「現在1→過去→現在2」という錯時法(さくじほう)になっています。これがもし実際の時間の流れどおりの「過去→現在1→現在2」だったらどうだろうか。オリジナルとその構造の違いを比べ吟味することができます。
また、題名については、たとえば「走れメロス」への注目があります。これは「走るメロス」でもいいはずです。なぜ命令形なのか。また命令とすると誰がメロスに命令しているのかを吟味するのです。もちろんさまざまな可能性が読めます。「語り手がメロスに命令」「(虚構としての)作者がメロスに命令」「メロスが自分に命令」……などさまざまに考えられます。そして、それらの中でどれが最もふさわしいかを検討するのです。
4.海外作品の複数翻訳および改訂版などとの比較—「スイミー」の例
「スイミー」の翻訳への注目してみます。この作品は谷川俊太郎が翻訳していますが、かなり原文を超えた意訳になっています。
たとえば導入部の「みんな赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりもまっくろ。」の原文は「They were all red.Only one of them was as black as a mussel shell.(直訳:みんな赤かった。1匹だけはからす貝と同じくらい黒かった。)」です。かなりの差があります。
展開部の「スイミーは かんがえた。いろいろ かんがえた。うんと かんがえた。」も原文は「Swimmy thought and thought and thought.」と一文になっています。これも読み手にとってはかなり印象が違います。この差を吟味してみます。
5.作品を総括的に吟味・評価する—「ごんぎつね」の例
「ごんぎつね」の悲劇の要因を追究することで作品を吟味していきます。ごんと兵十は一方が一方を撃つことなく理解し合えた可能性が読めます。にもかかわらずどうしてこういう悲劇が起こってしまったのかを考えます。もちろん本文に戻り、本文を再読していつ吟味します。
吟味文を書く
学級全体で吟味・評価してきたことを、今度は一人一人が書いていく過程です。「書く」という過程で、学級全体の吟味・批評を生かしながらオリジナルの吟味文を完成させていきます。
また、書くことでそれまでの読み取りを再構築することができます。
単元によっては長めの批評文を書かせてもよいと思いますが、単元によっては短めの短作文的「吟味文」で済ませる場合とがあってもよいと思います。
そして、それを子ども相互で交換し、さらに吟味を高めていくのです。吟味よみによって子どもたちはより主体的な読者として育っていきます。
おわりに
以上が「物語の新三読法:構造よみ—形象よみ—吟味よみ」の指導方法です。最後までお読みいただきありがとうございました。
物語・小説の授業を通して、子どもたちの「ことばの力」が育っていきます。構造的な認識の仕方、レトリカルな認識の仕方、象徴的な認識の仕方、世界を異化して新しく捉え直す方法などを身に付けていくのです。
また、子どもたちはそれを一生の財産として、物語・小説と自分の生き方とを深くかかわらせていくことができるようになります。それは生涯にわたって大切な財産となります。
ぜひ国語の授業に生かしていただけましたら幸いです。
拙著『増補改訂版 国語力をつける物語・小説の「読み」の授業 ―「言葉による見方・考え方」を鍛えるあたらしい授業の提案 』では、様々な教材を引用しながら物語・小説の指導過程について丁寧に解説しています。
更に「モチモチの木」「ごんぎつね」「走れメロス」については詳しい教材研究を載せています。ぜひご覧ください!
掲載教材:「モチモチの木」「ごんぎつね」「走れメロス」
📕注:「大造じいさんとガン」本文は、小学校国語教科書『国語 五』(光村図書出版,2015年)による。
📕注:「スイミー」日本語本文は、小学校国語教科書『こくご二上』(光村図書出版,2015年)による。教科書の分かち書きを通常の書き方に改めて引用した。オリジナルは、Leo Lionni “Swimmy” 1963 , Pantheon Books.